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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第111話

 天界中枢、円環の間。


 白は光を反射せず、影だけを深く落としていた。


 集められた者たちは、誰も言葉を発しなかった。

 議論はすでに尽きている。

 結論が出ないまま、時間だけが過ぎていた。


 セラフィエルは中央を見つめていた。

 そこには玉座がある。

 空席のまま、長く使われていない場所。


「――来る」


 誰かが、そう呟いた。


 空気が変わる。

 圧ではない。

 重さでもない。


 意味が、到着した。


 光が集まり、人の形を取る。

 翼はなく、装飾もない。

 ただ、存在として整いすぎている。


 プロヴィデンス=イオ。

 最終裁定者。

 因果と可能性の管理者。

 神と呼ばれる存在。


 イオは、ゆっくりと周囲を見渡した。

 責める視線でも、慈しむ視線でもない。

 記録を見るような目だった。


「――まだ、決められていないのだな」


 誰も否定しなかった。


「裁定は?」


 声は穏やかで、感情がない。

 だが、その問いは重い。


 セラフィエルが一歩前に出る。


「定義が不可能です」


 短く言った。


「善でも、悪でもない。

 危険でも、無害でもない。

 秩序に属さず、反してもいない」


「存在している、という事実だけがある」


 イオは、わずかに頷いた。


「理解している」


 それだけで、把握は終わったようだった。


 沈黙が落ちる。


 裁くのか。

 消すのか。

 あるいは、名を与えるのか。


 イオは、玉座に腰を下ろさなかった。

 立ったまま、言う。


「――裁定は、行わない」


 一瞬、空気が揺れた。


「未来に委ねる」


 誰かが、息を呑む。


「これは、放棄ではないのですか」


 ルクスの声には、珍しく熱が混じっていた。


 イオは、すぐには答えなかった。

 ほんの一拍、間が空く。


「可能性が未確定なものを、

 今の尺度で固定すること自体が、暴力だ」


「我々は、全てを知っているわけではない」


 神が、そう言った。


「責任は?」

「誰が、結果を負うのですか」


 イオは、少しだけ考える素振りを見せる。


「世界だ」


 簡単な答えだった。


「そして、彼自身」


 名は出されなかった。


「観測は続ける。

 干渉はしない。

 分類もしない」


「ただ、存在を許可する」


 救いでも、罰でもない。

 保留という名の、決断。


「これが、最終裁定だ」


 そう言って、イオは光へと還っていった。


 後に残ったのは、静寂だけだった。


 誰も勝っていない。

 誰も救われていない。


 セラフィエルは拳を握りしめた。

 ほどくことが、できなかった。


 胸の奥に、冷たいものだけが残る。


 天界は、その場を動かなかった。


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