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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第107話

 魔界の空は、今日も濁っていた。


 赤黒い雲が低く垂れ込み、遠くで雷がくぐもった音を立てている。

 だが、その中心にある円形の広間だけは、不思議なほど静かだった。


「――結論は出たか」


 玉座にもたれかかるようにして、ヴァルが問いかける。


 集められていたのは、魔界でも上位に数えられる存在たちだった。

 姿は曖昧で、声だけが重なり合う。


「回収は可能」

「奪取も、不可能ではない」

「だが――」


 言葉が、そこで揃って止まった。


 ヴァルは、ゆっくりと目を細める。


「壊れる、か」


 否定はなかった。

 力は、確かにそこにある。

 未完成で、不安定で、それでいて魅力的な“核”。

 だが同時に、

 奪えば歪み、

 囲えば萎え、

 押し込めば……意味を失う、かもしれない。


「熟していない果実だ」


 誰かが、そう表現した。


「今、手を伸ばせば、種ごと潰れる」


 ヴァルは、指先で肘掛けを軽く叩いた。

 乾いた音が、広間に小さく残る。


「天界は?」

「沈黙しています」

「裁定を保留したまま、判断を先送りに」

「人間どもは?」

「互いに責任を押し付け合い、結論は出ていません」


 ヴァルは、小さく笑った。


「……面白いな」


 秩序を掲げる者たちが沈黙し、

 力を持たぬ者たちが混乱し、

 そして魔界が、一歩引いている。


「珍しい光景だ」


 上位の一柱が、低く問いかける。


「関わらぬ、という判断でよろしいか」


 ヴァルは、しばらく黙ったまま、濁った空を見上げた。

 雲の向こうを測るように。


「今回は、だ」


 その一言で、十分だった。


「価値がないわけじゃない」

「脅威でもないと言わない」

「だが――今、触れる意味がない」


 奪えば、こちらの色に染まる。

 染まった瞬間、それは観測の外へ出る。


「線を引く」


 はっきりとした宣言だった。


「監視は続けろ。だが、干渉はしない」

「誘導も、試しも、今回はなしだ」

「理由は?」


 ヴァルは、答えなかった。

 代わりに、肘掛けから手を離す。


「……壊れたものは、選ばれない」


 それだけだった。

 反論は出なかった。

 魔界は、本能だけで動く場所ではない。


「撤退を宣言する」


 ヴァルは立ち上がり、背を向けた。


「世界が答えを出すまで、我々は手を出さない」

「それが、今回の引き際だ」


 背後で、気配が次々と消えていく。

 最後に残ったのは、濁った空と、遠い雷鳴だけだった。


 ヴァルは、誰にともなく呟く。


「選ばれなかった存在が――どう動くか」


 続きを、口にはしなかった。

 雲は低く、まだ動かない。

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