第104話
宣告は、
静かに、
しかし確実に下された。
天界の文書は、
いつも通りの形式を保っている。
均等な行間。
装飾のない文字。
紙の端は、
きれいに揃えられている。
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「本件に関し、
現行の裁定体系に基づく定義は行わない」
最初の一文。
読み上げられるでもなく、
置かれるでもなく、
ただ、そこに存在していた。
否定ではない。
放棄でもない。
ただ、
定義しない、と記されている。
「当該事象は、
既存の分類に該当せず、
新規分類の設置は、
現段階では適切ではない」
理由はない。
判断だけが、空間に落ちている。
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「よって、
本件は暫定的に、
継続状態として扱う」
停止ではない。
終了でもない。
続ける、という選択。
だが、
何を続けるのかは、
紙の上に書かれていない。
「各界は、
現行の行動規範を逸脱しない範囲で、
必要と判断される措置を講じてよい」
許可の形をした制限。
余白の多い一文が、
まるで空気を引き裂くように、
そこにある。
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文書は、
そこで止まった。
署名はある。
効力も明記されている。
取り消し条項はない。
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天界では、
誰も異議を唱えなかった。
規定違反ではない。
手続きも正しい。
紙が重ねられ、
静かに棚へ戻される。
ただ、それだけだった。
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地上では、
文面が回覧される。
「結論は?」
問いに、誰かの指が行をなぞる。
「……出ている、らしい」
保証はない。
否定もない。
掲示板に貼られた札は、
途中で止まったままだった。
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魔界では、
一行だけが抜き出された。
「措置を講じてよい」
禁止されていない。
だから、可能だ。
石の重しが、
もう一度、ゆっくり動かされる。
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三界は、
同じ文書を読んでいる。
同じ効力を受け取っている。
だが、
読み終えたあと、
手の動きはそれぞれ違った。
名は、与えられない。
状態だけが、
紙の外で、
静かに、
しかし確実に続いていく。




