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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第103話

 場は、ひとつではなかった。


 天界の広間。

 地上の臨時会議室。

 魔界の応接区画。


 それぞれが、ほぼ同じ時刻に、

 同じ案件を扱っている。


 だが、

 互いの声は、直接には届かない。



「判断を」


 天界では、

 短い言葉が、卓上に置かれた。


 催促でも、命令でもない。

 形式としては、確認。


「現状は、未定義のまま継続している」


「定義がなければ、裁定が組めない」


 誰も否定しない。

 反論も出ない。


 書記官は羽根ペンを置き、

 次の行に何も書かず、間を空ける。


「対象は?」


 問いは出た。

 だが、答えは返らない。


 名前は記されず、

 紙だけが宙を渡る。



「保証が欲しい」


 地上では、

 別の言葉が使われる。


「再発しないという保証」

「被害が拡大しないという保証」


 机の端に欠けた湯のみ。

 誰のものかは、分からない。


 数字はなく、期限も決まらない。

 それでも、要求だけは、

 文書の形を取った。


「誰が責任を持つのか」

「どこまで補償されるのか」


 宛名欄は空白のまま。

 書類は回覧され、

 誰も何も書かない。



「対価の話をしよう」


 魔界では、

 静かな声で条件が出される。


「こちらは、引いた」

「次も、引ける」


 事実だけが残る。

 机の上の石製の重しが、

 わずかに位置を変えられる。


「無償では、続けられない」


 要求は具体的だ。

 領域。

 権限。

 裁量。


 整いすぎるほど整った交渉。


「決める者が必要だ」

 その言葉だけが、

 何度も形を変えて繰り返される。



 どの場にも、

 同じ空白が残る。


 書類の余白。

 発言の切れ目。

 誰かが口を開きかけて、やめた跡。


「本人の意思は?」


 形式的に出た言葉。

 だが答えを待たず、次の議題が差し込まれる。


 意思を聞くには、時間が足りない。



 天界では、裁定期限が示される。


「これ以上の先送りは不可」


 地上では、回答期限が書き込まれる。


「本日中」


 魔界では、条件の有効期限が添えられる。


「次の干渉まで」


 三つの期限は揃っていない。

 だが、同時に迫っている。



 会話は続く。

 言葉は整い、

 論理も破綻しない。

 誰も間違ったことは言わない。


 だから、

 結論だけが先に求められ、

 名は、最後まで書かれなかった。


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