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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第102話

 天界では、制限がかけられた。

 光の層が一段落とされ、

 干渉範囲が狭められる。

 数値は規定内だった。

 記録も残る。


「これで十分だ」

 誰かが言った。

 反対の声は、なかった。

 実行は、遅れていない。

 命令の形式にも、問題はなかった。


 ただ、制限がかかった場所と、

 現象が続いている場所が、

 完全には重なっていなかった。

 天界の観測盤には、

 沈静化を示す線が引かれる。

 線の外側で、レイは立ち止まり、

 微かな揺れと、空気の違いを感じていた。

 何かが、まだ動いている。



 魔界では、撤退命令が出ていた。

 短く、明確な言葉だった。

 誤読の余地はない。


「引け」

 伝令は、走った。

 途中で、進路を変えられることもなかった。

 前線の一部は、すでに下がっている。

 戻った痕跡も残っている。

 だが、すべてが戻ったわけではない。


 レイは、前線の動きを視界の端で追いながら、

 止まることのない力を感じ取った。

 動き始めたものは、途中で止められない。

 天界も、魔界も、地上も、

 全員が「止めたつもり」だった。


「撤退は完了した」

 報告は正しかった。

 だが、レイの目には、

 まだ動く影が、点として残っていた。



 地上では、避難の声が上がっていた。

 鐘が鳴る。

 布が振られる。

 いつも使われている合図だ。


「こちらへ」

 声は、出されていた。

 通路も、確保されている。

 人は、動いた。

 動ける者から、順に。

 だが、全員ではない。

 聞こえなかった家がある。

 理解できなかった者もいる。

 靴を探している間に、

 声の主は、別の方向へ行ってしまった。

 片方だけ履いたまま、外に出た者もいた。


 レイは、足元と通路の端を確認しながら、

 人々の流れを追った。

 手や視線で介入することはなかった。

 ただ、止まらない理由を観察していた。



 境目の近くで、

 音が一度、途切れた。

 続いて、別の音が重なる。

 止まったものと、

 止まらなかったものが、

 同時に存在していた。


 誰かが、

「もう大丈夫だ」

 と言った。

 別の誰かは、

「まだ続いている」

 と口にした。

 どちらも、嘘ではなかった。


 レイは、揺れる空気の中で、

 どちらの声も確かめるように見つめていた。

 止まらない理由を、自分の体に感じ取りながら。



 天界の記録には、

 制限実施の時刻が刻まれている。

 魔界の報告には、

 撤退完了の印が付く。

 地上の掲示板には、

 避難終了の札が、途中まで貼られている。


 それぞれが、

 それぞれの範囲で、

 止めたつもりだった。


 レイも、そこにいた。

 介入はせず、ただ見ていた。

 声は、すれ違い、

 命令は、行き違い、

 結果だけが、残った。


 境目は、まだ消えていない。

 だが、

 消えていないことを、

 誰が見ていたのかは、

 はっきりしなかった。

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