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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第92話

 会議室は、必要以上に広かった。

 円形に配置された机。

 上下はない。

 少なくとも、形の上では。


「前提を確認したい」


 天界側の代表が、静かに口を開いた。


「対象は、未成熟である。

 力の全容も、影響範囲も、いまだ確定していない」


 反論は出なかった。

 地上側の者たちは、手元の資料に視線を落とす。

 数値。

 想定図。

 欄外に添えられた、小さな注記。

 ――“最悪の場合”。


「だからこそ」


 別の声が、間を継ぐ。


「自由行動は、リスクが高い。

 管理下に置くのが、合理的だろう」


 “合理的”。

 その言葉は、机の中央で止まった。

 誰も、拾い上げない。


「管理とは、拘束ではない」


 説明が、少し遅れて補足される。


「環境を整え、選択肢を限定し、

 事故を未然に防ぐための措置だ」


 安全。

 予防。

 再発防止。

 どれも、聞き慣れた言葉だった。


「自由は、確かに尊い」


 天界側が、小さく頷く。


「だが、自由は常に危険を伴う。

 責任を負えない存在に与えるには――早い」


「“早い”という判断は」


 地上側が、間を置いて口を挟む。


「誰が、どの基準で決める?」


 一瞬、紙をめくる音だけがした。


「前例と、観測結果に基づいて」


 淡々とした返答。


「感情ではなく、確率で」


 確率。

 統計。

 予測。

 議論は、少しずつ高さを増していく。


「自由を与えた場合の損失」

「管理を続けた場合の摩耗」

「社会的影響」

「他領域への波及」


 “本人”という言葉は、

 いつの間にか、使われなくなっていた。


「対象が感じる負担については?」


 形式的な問い。


「測定不能だ」


 即答。


「主観的要素が強すぎる」

「だが、無視はできない」

「だからこそ、後回しにする」


 後回し。

 優先順位の話。


「今は、全体の安定が先だ」


 誰かが、そう締めた。

 異論は出ない。

 守るため。

 壊さないため。

 未来のため。

 理由は、整えられていく。


 けれど――

 その中心にあったはずのものは、

 いつの間にか、机の上から外れていた。


「結論として」


 天界側が、まとめに入る。


「段階的管理を推奨する。

 自由については、状況を見て再検討」


「地上としても、同意できる」


 合意。

 円満。

 誰も声を荒らげていない。

 誰も、傷つけるつもりはない。


 それでも。

 会議室を出た者の中で、

 ひとりだけ、歩みを止めた。


「……私たち」

 小さく、呟く。


「ちゃんと、見てた?」


 返事はない。

 扉が閉まり、

 机の上には、議事録だけが残る。

 そこに記されるのは、

 判断。

 方針。

 管理。

 ――名前は、書かれていなかった。

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