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第3話 Left's Gambit

放置老婆ほうちろうば「ハハッ!」


 彼女は高揚している。


 舐男なめおとの距離は10m程。放置老婆にとって10mと1mは同じ距離である。


 更に彼女は力を完全にではないが、溜めていた。


 二人は完全に正対しており、放置老婆は舐男の心臓を真っ直ぐ、一度も曲る必要もなく突く事ができる。


 放置老婆「これは技名を叫ばざるを得ないわね!!」


 放置老婆「レインテール・パラゴーシュ!」


 彼女が右手に持っていたレイピアが、舐男の心臓を狙い直進する。


 彼女が通り過ぎた軌跡に、アスファルトに咲くはずのない、赤い彼岸花が咲き誇る。


 彼女のレイピアの餌食になった人間の数だけ彼岸花は咲き誇る。


 俺様「うおおおおおおおおおおおお!」


 舐男がレイピアが当たる直前に上半身だけ左側に、左肩をレイピアに差し出す様に捻る。


 心臓に当たるはずだったレイピアは舐男の左側の三角筋中部線維さんかくきんちゅうぶせんい(肩の丸みを帯びた筋肉)を貫くが、奥の上腕骨じょうわんこつがレイピアの軌道を舐男の背面に反らす。


 衝撃で上腕骨にひびが入る。


 舐男は、左肩に深い傷を負ったが、致命傷にはならなかった。


 俺様「ぐぅぅ…!」


 放置老婆「ハハッ!あんた最高じゃない!これも防ぐなんて!」


 舐男の左腕はもう使えないだろうが。


 放置老婆が舐男に刺さっていたレイピアを抜き、追撃の準備をする。


 放置老婆「さあ!老婆!こいつの足を掴んでなさい!!!!!」


 放置老婆「次でとどめ…さしちゃうから…」


 放置されていた老婆の掴む力が強くなる。


 一度、舐男は放置老婆に牽制を入れるために怪我をしていない右腕でわざと見え見えのストレートを放つ。


 先ほど固いトイレの扉を破壊していたのを見ていた放置老婆は、舐男の攻撃を強く警戒しているせいかそれを大げさにのけぞって避ける


 二人の距離が離れ、舐男はその隙に左足を大きく動かす。


 舐男は放置されていた老婆の腕を振りほどくことに成功し左足が抜ける。


 俺様「おらぁ!このままくらえ!」


 舐男が抜いた左足でそのまま放置されていた老婆の顔面を踏む、


 が、効かない。もともと痛覚などないのだろう、


 痛みではびくともしない。


 痛みではびくともしないが…




















 放置されていた老婆「こいつの足くっさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 放置老婆「!!」




 放置老婆の追撃をしようとしていた手が止まる。


 放置されていた老婆は、臭い匂いが鼻へ侵入するのを防ぐために自身の手で鼻をふさぐ。


 放置されていた老婆「わしの手もくっさあああああああああああああああああああ!」


 俺様「ばかか!!?」


 俺様「さっきまでその手で、おれの足を靴下ごと持ってたんだから当り前だろうが!!」


 放置されていた方の老婆が、舐男の足のあまりの臭さに苦しみ悶えている。


 意識を失う寸前の彼女は、これまでの苦しかった思い出や、悲しかった思い出、初恋の人の顔を思い出す。


 初めての恋は学校ではなく、駄菓子屋の前で何の前触れもなく発生した。


 その時《《放置されていた老婆》》(当時6歳)はアイスを一人で購入した。1つのアイスに棒が2本付いており、真ん中からパキッと割って2つに分けられるのが特徴なアイス。


 当時友達が一人もいなかった老婆は、「あーあ…誰かと…できれば白馬に乗った王子様と一緒にたべれたらなぁ…」なんて当時の少女の恋のテンプレートにあこがれていた。


 老婆は突然の腹痛に襲われる。しかしアイスを無駄にできない。


 そこで現れたのが、白馬に乗った王子様、もとい、同い年の匠君。


 彼はさっそうと現れこういった。




「俺が、持っていてあげる。守ってあげる。君のアイスを…」




「だから…行ってきな…」



 そのあと二人はそのアイスを二つに分けずにそのまま、一緒に食べる。食べ辛いね、なんて笑いあいながら。


 食べ進めていくと最後にひとかけらだけアイスが残る。当時の老婆が遠慮していると匠君がそれを口に含み、当時の老婆にキスをしたのだ。




 初恋は…ソーダアイスの味だった。




 それらは走馬灯のように再生され、消えていく。




 放置されていた老婆が涙する。




 思い出が消えたことが悲しいのではない。




 単にここまで臭い足の匂いを嗅いだことがないからだ。




 放置老婆「あんたどんだけ足臭いのよ!」


 俺様「仕方ねーだろうが!仕事終わりだったし!」


 放置老婆「あんた!ここの老婆はね!」


 放置老婆「ここのくっさい仮設トイレのにおいが好きで入ってんのよ!」


 俺様「どんな趣味だ!」


 俺様「助けて損したわ!」


 放置老婆「その老婆が苦しみ悶えるってどんな臭さよ!?」


 俺様「俺様ってそんなに臭いのかな…」




 舐男は好奇心に駆られる。


 舐め男は自分の片足を自分の鼻に、バレリーナの様に足を上げ、かいでみる。


 放置老婆「こいつめっちゃ体柔らかいわね…いらん情報だけど…」


 俺様「俺様は昔バレリーナだったからな!」


 放置老婆「こいつこんなにでかいのにバレリーナとかやったことあんのね…」


 放置老婆「絶対ほかに適正あるスポーツあったでしょ…」


 足が鼻につく。呼吸をする。舐男の足のにおいが鼻腔を貫く


 俺様「うーん…」




 俺様「白ご飯にかけて食べたい感じの匂いしてるな」


 放置老婆「納豆だとしたら臭いけど、カレーだとしたならいいにおいになるわね…」


 俺様「嗅ぐか?」


 放置老婆「いらん!」


 舐男が白鳥のように足を上げた体制のまま放置老婆のほうに近づく。


 放置老婆「寄らないでよ!」


 放置老婆「改名しなさい!足臭舐男に!」


 俺様「するわけねーだろ!」


 俺様「虐められるわ!そんな名前」




 俺様「…!」




 舐男は自分にとってこれは勝ち筋になると気づく。


 足臭舐男に改名することではない。


 彼女は明らかに嫌がっている。


 舐男は両方の靴下を脱ぎ始める。


 それらを両手のこぶしにそれぞれはめる。


 肩は痛むが関係ない。


 やらなきゃやられる。


 ボクサーのように右手のこぶしを顔に近づける。いつでもやれる準備はできている。

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