第15話 残響の終焉か、新たな序章か
夜が明けた。
街を覆っていた「迷いの森」は跡形もなく消え、残ったのは黒く焦げた路面と倒れた街灯だけだった。
人々はまだ混乱していたが、確かに息をして、互いに「ありがとう」と声を掛け合っていた。
勇者バイトチームの初めての大きな戦いは、終わったのだ。
「……本当に終わったのか?」
佐久間さんが店の前で煙草を指で転がしながら呟く。
「核は砕けた。でも、あの残響の言葉が気になるな」
美咲がスマホを見せた。
「SNSは“深夜勇者ありがとう”で埋まってる。人々が自発的に声を上げてる……。
でも、その裏で“魔王”ってタグも増え始めてるの」
俺は胸ポケットの破片を握りしめた。
まだ熱を宿している。完全に沈黙してはいない。
昼間の街角。
子どもたちが紙で作った“どうぞ札”を配っていた。
「はいどうぞ」「ありがとう」と遊びに取り入れている。
それを見て、胸の奥にじんわりと温かいものが広がった。
「……守れたんだな」
声が思わず漏れる。
だが同時に、頭の奥に低い囁きが響いた。
「勇者よ……残響は消えても、根は残る。
やがて我は、必ずこの世界に芽吹く」
魔王本体の“声”だ。
俺は足を止め、空を見上げた。
快晴の青空の下で、その声は確かに響いたのだ。
脅威はまだ遠い未来に潜んでいる。
だが今は――この街の笑顔を守り抜いた事実だけを信じたい。
「どうぞ、俺に任せてくれ」
小さく呟いたその言葉は、街のざわめきに溶けていった。
夜勤明けのコンビニ。
レジのカウンターに札を置き、俺は微笑んだ。
「いらっしゃいませ」
――勇者の新しい戦場は、今日もここから始まる。
<第一部・了>