元魔王な令嬢は、紙ひこうき教室を開く
読みに来て下さって、ありがとうございます。
前回の交流会の続きとなります。
紙ひこうきを、皆で作るぞー。おーっ。
と、気合いを入れつつ、紙ひこうき作りです。
「『紙ひこうき』と言えば、あれですわよね。あの恥ずかしいやつ」
アメリアが言っているのは、多分、あれよね。あいあい傘にライ殿下と私の名前が書いてるやつ。ラブラブで、良いじゃない。私は、大好きよ、あれ。ライ殿下の、愛なのよ。
さすがに、紙ひこうきのまま置いておけないから、キレイに広げて、紙挟みに挟んであるわよ。当然。
「恋文だって、ちゃんと確実に相手に届くと言う魔法よ。恋文のパワーは、スゴいのよ。書いた内容によって、紙ひこうきも進化するのよ」
「とにかく、魔法なんだな?その『紙ひこうき』は」
ジェラルドが、怪訝そうな顔で、私に言った。
とにかく、論より証拠よね。実行あるのみ。
私は、王城の侍女に紙とペンとインクを用意してもらった。
「まず、宛先を書きます。今日は、練習なので、親しい人に書いてください。王城内に居る方に書くと、すぐに反応がありますわよ。
先程、アメリアが言った様にラブレターを書くと、パワーのある使命感を持った紙ひこうきになるかも。これは、もう、ラブ度によりけりですよね」
土煙をあげて、誰かがこちらに走ってきた。え!?スゴいスピードなんだけど?
見る見る内に、私達の元へと辿り着いた。
「ちょっと、ベルリーナちゃん。僕を抜きにして、また、愉しそうな事をやってるんじゃないでしょう、ね?」
魔道具製作部長、推参ですね。
「魔道具製作部長様。今日は、こちらでは、ラインハルト殿下と婚約者のベルリーナ嬢の側近候補達の交流会をしておりますのよ。ご遠慮下さらない?」
アメリアが、いつもの扇を開いて口元を隠し、部長を睨みながら言った。
「僕の勘が、ここに来ると面白い事があるって言ったんだ。さあ、キリキリ白状して貰おうか、ベルリーナちゃん」
何で、何かを作ろうとすると、部長が来るんだろうか。まあ、いいけど、別に。邪魔しなければ。
「アメリア、ムリだから。諦めて。部長は、いつも何か作り終わるまで帰らないから」
ウンウンと頷きながら、部長は先程までライ殿下が座っていた椅子(私の隣の席)に座った。
部長は、実に上機嫌だわね。何か嫌だわ。
「今日は、いつもの『紙ひこうき』を皆で作るだけよ」
私が、そう言うと、部長は、イソイソと懐から紙とペンとインクを取り出した
「『紙ひこうき』、良いよね、あれ。うちの部でも、あれを皆が気に入っちゃって、随分と改良が進んだんだよ。今日は、僕も一緒にレクチャーするね」
おや、その手があったか。そう言う事に関しては、魔道具製作部の横に並ぶ者は無さそうだしね。それは、私も楽しみかも。
「『紙ひこうき』は、お手紙を速く確実に相手に届ける為の魔法です。
まずは、お手紙を書きます。最初に、届けたい相手の名前を書いてください。これで、着実に相手に手紙が届きます。内容を書いて、最後に自分の名前を書きます。これで、手紙は、宛名の人物と、自分にしか開けることが出来なくなります」
皆が、手紙を書き出した。
「ねえベルリーナ。これは、王城の外にも届くのかしら」
「届くわよ。誰に出すの?アメリア」
「家で良い子で待ってるペットですわ」
「アメリア、喜び勇んで走ってきそうだから、止めて頂戴。ペットって、あのケルベロスよね。あんなのが走って来たら、町中パニックよ」
うちの橘が走ってここに来るのと、どっこいどっこいじゃない。ヤバいヤバい。アメリアは、時々、とんでもない事を言うわね。
皆が手紙を書けた所で、私が説明しながら、皆で『紙ひこうき』を折っていった。魔道具製作部では、速く飛ぶ折り方を改良したとの事で、部長が早速、その折り方を披露してくれた。
なるほど、なるほど。
「更に、『紙ひこうき』の側面に『内密』と書くとステルス機能が付いて、姿を消しながら飛ばせる。『至急』と書けば、更に速く届く。他にも色々試してみると良いよね」
「では、『水濡れ厳禁』と書くと、水を弾くかな」
ああ、これで、雨の日でも手紙が飛ばせるわね。やったわ。
「さて、呪文を唱えて完成です」
「え……私には、ムリだわ。魔力が少なすぎるもの。不安定で、上手く発動しないし」
アーメンハイドが不安そうに言った。
私は、彼女の両手を取り握りしめ、ライ殿下やアメリアの時の様に、アーメンハイドの体内の魔力を活性化させた。
「何だか、自分でも、身体の中の何かが変わったみたいに感じるんだけど、これで大丈夫なの?ベルリーナ」
「やってみれば、判るわよ。アーメンハイド」
やってみなければ、何も出来ないでしょう?
皆に自分の紙ひこうきを手に持って、呪文を唱えてもらった。
『飛べ飛べ紙ひこうき、宛名の元へ。他の誰の手にも渡らず、真っ直ぐ飛んで行け!』
皆の紙ひこうきが一斉に光ったが、その中でも一際、光を放つ紙ひこうきがあった。
光が薄れると、それは、鳥になった。
「アーメンハイド、何をしたの?」
「わ、私、紙ひこうきの外側に、くちばしや目を描いて、一面に鳥の羽毛の柄を描いたの」
皆の紙ひこうきの様に、手で持って飛ばすことなく、アーメンハイドの鳥は、ひとりでに飛んでいった。
え?ちょっと羨ましくない?
「魔法って、どんどん可能性が拡がるよね」
それを見ながら、部長が呟いた。
「僕も、挑戦するから、見てて。よし、出来た!」
『飛べ飛べ紙ひこうき、宛名の元へ。他の誰の手にも渡らず、真っ直ぐ飛んで行け!』
「部長、スゴく光ったわ。成功。スゴい!ケツァルコアトルだわ」
「え?鳥っぽくなる様に描いたんだけど?」
「絵心の問題かしらね」
まあ、飛べれば良いのでは?




