元魔王な令嬢は、ちょこっとだけ空を飛ぶ
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ワイバーン、飛びます。
叔父上が、フレンを迎えにやって来た。フレンは、まだ調書だの検査だのが残ってるらしい。
丁度いいので、叔父上に、私やライ殿下と一緒にイカロスに乗ってもらう事になった。
「護衛の責任問題とかが、あるからな。これからも、こういう時は、俺を呼べ」
ああ、ワクワクする。叔父上やライ殿下は、イカロスに乗せてもらった事はあるけれど、私はイカロスに乗って空を飛ぶのは、初めて。
よく考えたら、私はイカロスの主なのに、今まで乗せて貰った事がなかったのよね。プンプン。
フレンには、乗らなくていいけど。
ひいお祖母様が、先導してくれる事になった。ひいお祖父様に任せたら、どうなるかわからないので。
イカロスはワイバーンと同じサイズになり、前から、私、ライ殿下、叔父上の順にイカロスに乗った。
「ベルを抱っこするのは、私の役目だ」
と、ライ殿下が譲らなかったので。
「まあ、私は今回は殿下の護衛ですからね。いいですけど」
「僻むな、魔術師団長。団長が私の護衛なら、私はベルの護衛だ。ベルは、私の宝物だからな」
ははは、と殿下は笑った。
ワイバーン達とイカロスは羽ばたき、王都の上空を一周した。人々が、何事かと空を見上げた。そのままイカロスが高度を上げたので、家々が、教会が、町の広場が小さく見える。
空は、こんなに広かったのか。イカロスの魔法のお陰で、激しい筈の風は感じられないが、上空の雲が、激しく流れているのがわかる。
「まあ、時々、前女王様達は、ワイバーンで都にいらっしゃってたからな。王都の人々は、ワイバーンがやってきても、そう驚かねえ。お前が生まれる前ぐらいから、辺境が騒がしくなっていて、お二人が、こちらに来られる事は無かったけどな」
「騒がしいとは、どう言うことだ?団長」
「隣国のデザリスタから、時折、盗賊や密輸団と称する者達が、流れてきています。かなり統率がとれているので、国絡みじゃないかと怪しんでいます。
今回の一件も、そちら絡みじゃないかと。気を付けろよ、ベルリーナ。もう、拐われるなよ」
折角の空の旅なのにね。やっぱり、そっちの話になるのね。叔父上は仕事人間だから。
「先月、私に、デザリスタの王女との婚約話が、持ち込まれた。勿論、父上や母上が断った。我が国にメリットが無い上に、相手の王女は10歳も年上でな。他は王子ばかりらしい。そこで、慌てて、まだ5歳の私に国内の有力貴族で尚且つ魔力の高い、優良な令嬢を婚約者に迎えることになったのだ。ふふふ。そこでベルに出会えて良かったな」
「ライ殿下、そう言えば、私とアメリアは男爵に、王子様と結婚させてやろうと言われました。私はライ殿下と婚約しているのに、変な話ですよね。それに、二人とも各々、王子様と結婚なんて、王子様の大安売りだなぁって思いました。男爵の国には、そんなに何人もの王子様が、いるんでしょうか」
「いやぁ、龍にも乗ってみるもんですね。貴重な情報が、ボロボロと出てくる。実は、あの男爵は廃人同様になってしまって、情報が取れなかったんで、困ってたんですよ。
それはそうと、2人とも下を見てごらんなさい。黒い靄がかかって気持ち悪かった、男爵邸の裏のあの林が、すっかり普通の林になっている」
眼下には、半壊した男爵邸があった。日中に見るその屋敷は、もう、ただの建物にしか見えない。
気持ちの悪い怨念の残滓も、全て消え去った。
「調査が終わったら、あそこに墓を立てよう。そして、一面に花を植えよう。ねえ、ベル、そうしたら、そこに眠る皆に、歌を歌ってくれるか?」
「勿論です。ライ殿下。アメリアやフレン、ジェンナ、ハジェスも一緒に。皆で行きましょう」
私達は、ぐるっと王都を一周し、走る馬車や色とりどりの屋根を見て、教会の尖塔で鳴る鐘の音を聴きながら、私達は王城へと戻った。
「ひいお祖父様、何故、私達は立ってワイバーンに、乗ってるんですか?」
「フム、カッコいいだろう?フレン」
「いや、座った方が安全です。私じゃなく、他のひ孫だったら、落っこちてますからね」
「タンディン、ワイバーンが気流が乱れて飛びにくそうだから、座ってあげて頂戴」
タンディンは、じっとしてるのが、嫌いです。