元魔王な令嬢は、お家に帰れなかった
読みに来てくださって、ありがとうございます。
なかなか終われない第一章。もうちょっと続きます。
ライ殿下と一緒に馬車に乗せられた私は、知らない天井の下で目が覚めた。
隣には、スースーと言う聞き覚えのある寝息。横を向くと、ライ殿下が可愛い寝顔で眠っていた。涎が少し出ているのも可愛い。何せ、5歳なので。
もう一度天井を見ると、ああ、見覚えが、あったわね。
ここは、王城の私と殿下の寝室。
ああ、また、ライ殿下と同じベッドで夜を過ごしてしまったのね。
まあ。良いわね。ライ殿下は私の亭主で、私はライ殿下の嫁らしいから。それに、どうせ、まだ5歳だし。
私が目覚めた気配に反応したのか、殿下が目を覚まして、伸びをした。
「おはよう、ベル。ふふふ、また一緒に眠ってしまったね」
私達の片手は、繋いだままだった。ああ、このせいで、一緒のベッドに寝かせられたのね。
二人とも、昨夜と同じ服装だった。私達が手を繋いだまま離さなかったので、靴だけ脱がされてベッドに入れられたらしい。
殿下は私に抱きつき、私の頬にキスをした。そして、自分の頬を指でテンテンと叩き、私にもキスをせがんだ。
もちろんですとも。私が、殿下の頬におはようのキスをすると、殿下が微笑んだ。
「おやすみのキスは、なかったからね。ちょっと残念。公爵邸は、警備の見直しをするから、ベルは昨日、ここに泊まったんだよ。馬車の中で、その話をしてたんだけど、ベルは眠ってしまったから」
私達は、ベッドに再び寝転がって横を向き、お互いに顔を見合わせた。
「すいません。馬車に乗った途端、眠くなって眠ってしまいました」
「うん。大丈夫。私も、その話の後、すぐに眠ってしまったから。大して変わらないよ」
私達は、お互いに昨日何があったのか、どんな事をしたのか話し合った。
殿下は、男爵や、その屋敷に居た研究者達に怒り、私は殿下が闘いに巻き込まれた事に恐れおののいた。だが、殿下は恐れるよりも、自分が闘えない事に対して、憤っていた。
「私は、前より一層、色んな事を学ばなければならないと思ったんだ。だから、ベルは私にまた魔術を教えて欲しい。勿論、先生方にも教わるけれど。
そして、ベルは危ない目に合わないように気をつけて」
「そうですね。私も、沢山お勉強をしようと思います。例えば、紙ひこうきは、水に弱いんです。てるてるぼうずは、手足がないので、防御と体当たりしか出来ないし。案山子は藁で出来ているので壊れやすいんです。
でも、私の今の技術では、これ位しか作れなくて」
「私は、普通の勉強以外に、明日から魔術を学ぶ。私にどんな魔術が出来るのか考える。そして、一番は、体力作り。今回、魔術師団長に、どれだけ抱っこされた事か」
殿下は、溜め息を吐いた。そう言えば私も、いっぱい抱っこされてしまったわね。
「今日から、一緒に庭を走り回ろうか?ベル」
「ええ、それならすぐに始めれそうですわね」
5歳児にだって、プライドは、あるので。脱、抱っこ状態です。
いつまでも寝転がっている場合ではないので、私達は、最後にぎゅっと抱きついて頬を合わせた。
「せーのーで、で、起きるぞ、ベル。せーのーで」
「殿下、ベルリーナ様。起きてらっしゃるのは話し声でわかるんですよ。疲れてらっしゃるでしょうが、そろそろベッドから出て、準備をさせて下さい。お昼過ぎですよ」
「「今、起きるとこー」」
ノックの音と共に入ってきたアンナの声掛けに、私達は、ベッドの上で、お互いに抱きつきながら、笑い転けた。
アンナの後ろから、イカロスがパタパタと飛んできて殿下の頭の上に乗る。ネトラスが、あたふたと部屋にまろび込む。
ああ、こんな平和な時間が、また戻ってくるなんて、なんて幸せなんだろう。
私達は、自分達の身分や力のせいで、これからも色々な事件に巻き込まれるだろうが、こんな時間があった事を、決して忘れない。
「ベルリーナ様の龍に認められたって、ベルリーナ様の亭主にはなれないんですよ?殿下」
「だって、神様に直談判なんて出来ないじゃないか、エディ」
「いや、国王陛下が認めないと結婚出来ないんですよ」
「父上より、神様の方が認めてくれそうな気がする」
認めないのは、ベルリーナの父です。国王陛下は、ラインハルトの言う通りにベルリーナさえ王族にしてしまえば、国は安泰だと思っています。




