第一王子は、適材適所を鑑みる
読みに来てくださって、ありがとうございます。
今回も、ラインハルト視点です。
第一王子ラインハルトside
新手が来る前に、私達は屋敷の塀に向かった。
それにしても……溜め息しか出ない。
「殿下、どうしたんですか~?」
装備を探りながら、魔道具製作部長が、私の顔を覗き込んだ。
「私は未だ5歳とは言え、不甲斐ないな、と思っている」
部長は、ふむふむと頷いた。魔術師団長は、私の頭をガシッと手のひらで掴んだ。
「殿下?適材適所ですよ。あ、因みに僕は、基本、闘えません。あの水滴魔法は、本来、洗濯とか掃除に使うんですよ。後、実験とかで、水滴を適量、試験瓶に入れるとか?」
はあっ!?
「ビックリしないで下さいよ~。僕は、魔力は大量にあるんですけど、魔法を使うのは苦手なんですよ。だから、魔道具を作ってます」
「そうですよ、殿下。あれが、こいつが唯一マトモに使える魔法なんですよ。あれで何とか実技試験を合格して、学園を卒業したんですよ。あの水滴を山程、同じ場所にスゴい速度でブチ込んで敵を倒すと言う、ムリヤリ魔法です」
団長が、いまいましげに部長を見た。部長は、エヘヘとニヤついている。
「どれだけ頑張って練習しても他の魔法が使えないんで、量とスピードで勝負する事にしたんですよ。後、回転とか加えてみたりして、用途も増やして。でも、どうやっても、水滴なんですよ」
困りましたね~と笑って、部長は言った。
「でも、部長は魔道具は作れるのでは、ないか」
「殿下、魔道具はね、魔法理論と魔力と道具を作る技術で出来るんですよ。職人技ですね。
この鎖も、実は、魔獣の捕獲とか、崖を降りたり登ったりする為の装備なんです~。さて、道具に丸頼りの僕が次に出しますのは、じゃ~ん。ドア製作スプレー。魔道具製作部、イチオシの商品です」
部長が、塀に香水瓶の様なスプレーを吹き掛けドアを描き、取っ手を付けると、吹き掛けた部分の塀が、ドアになった。
「まあ、家のリフォームの際に、ドアを壁に作る為に作られた便利な逸品なんですが、たまに暗部が使ってます」
「「あ!」」
私達は、ケルベロスを見た。
ケルベロスは、大き過ぎて入れない。
「セルマン、ケルベロスは、ここで待たせて置けないのか?」
「ムリですよ、殿下。こいつは、屋敷に突っ込む気、満々です」
とりあえず団長がドアを開けると、何かが私の所に飛んできた。船に乗ったオレンジ色のベビーキャロット。これは、ベビーキャロットのマンドラゴラ?
ベルだ。ベルの匂いがする。
「我が主ベルリーナからの伝言だ、主の亭主よ」
ベビーキャロットマンドラゴラの言葉をイカロスが翻訳した。屋敷内の部屋の配置、アメリアの件、3人の味方が居ること。そして、夜明けには屋敷を出発する事。
「ケルベロスは『待て』は、出来ないのだな?セルマン。ならば、イカロスと共に正面玄関で暴れて貰うのは、どうだろうか?団長」
「いいですね。陽動作戦と、行きましょう。殿下」
「イカロス、ケルベロスを連れて、屋敷の者が出発するのを阻止してくれ。大きくなってもいいが、屋敷は壊すなよ?」
私と団長、部長にセルマンは、出来上がったドアから、塀の中に入ろうとした。
「ああ、イースタン公爵家も、どうやら到着したみたいだな。殿下、どうしますか?」
街道を、騎馬隊が駆けて来るのが見えた。あの騎士服の色は、確かにイースタン公爵家だ。
「イカロス、公爵にも現状を話して、屋敷を取り囲む様に伝えてくれ。奴らを一匹たりとも逃がすものか」
「冷徹魔王が囮って、贅沢な適材適所だな、殿下。まあ、目立つっちゃ目立つけどな」
小声で笑いながら、団長が言った。
ベル、待ってて。もうすぐそっちに行くから。
私1人では何も出来ないけど、必ず行くから。
「痛っ!セルマン、イライラすんじゃねぇ!静電気帯びてるぞ。ドアノブが、つかめねえ」
静電気、痛いですよね。雷魔法が、だだ漏れると、周りが静電気を帯びそうで嫌です。