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侍従見習い達のタイマン(令嬢達のタイマン、4回戦目その2)

 読みに来てくださって、ありがとうございます。


 お盆休みに入りましたが、いつもより忙しい気がします。



 アメリアの侍従見習いセルマンは、私とセバスを蔑んだ目で見た。


「たかが、藁で出来た人形、私の敵ではございませんよ、お嬢様」


 セルマンよ、その目はアウトだ。私はアメリア嬢と同じく公爵令嬢な上、第一王子の婚約者。あなたが蔑む立場では、ない。

 そう、ここは一発、ベルリーナ>セルマンのヒエラルキーの図式を立てねばならない。うん。おーっほっほっほ。目にもの見せてくれよう。


「問題は、何を競って貰うかよね。私達、令嬢がやっちゃいけなくて、この場所で出来て、他の人の迷惑にならない競争。逆立ち歩き競争?走り幅飛び?何かを作るとか?う~ん、何かショボいわね。何かないかしら?」


「恐れながら、お嬢様。紐鬼は、どうでしょうか?」


「ひもお兄?どちらの方かしら。セルマンのお兄様?」


「紐鬼で、ございますよ。お嬢様。紐を使った鬼ごっこで、平民の子供の遊びです。まあ、高貴な方々は、御存じないと思いますが」


 莫迦にした表情で、セルマンがこちらを見る。紐鬼か、紐鬼だな。知ってますとも。前世で魔王だった頃、爺やが教えてくれました。子供の発育に良いとかで、いつも一緒に遊んでくれた。懐かしいわね。


「円は、1メートル位で良いわね?セバス、直径1メートルの円を描いてちょうだい」


 そう言って私が棒を渡すと、セバスは、きれいな円を地面に描いた。流石、セバス。私の新しい手下は、有能ね。このまま、本当に侍従見習いにしようかしら……あー、また新人メイド達に怖がられるわね。ダメかしら。


「いいな~。この侍従見習い。この対戦が終わったら、僕にちょうだい。ねえ、ベルリーナちゃん、いいでしょ?」


 いや、それは、絶対ダメ!セバスが、どうなるかわからないから。分解されたり、色んな実験に使われたり、耐久性チェックとか称して拷問にあうのよ!きっと。


「部長は、ご自分で、つ・く・れ・ますよね?」


 お祖父様に、預けた方が良いかも。それとも、ガイに預ける?おっと、それは、後で後で。


「おや、イースタン公爵令嬢様は、貴族のご令嬢なのに、よくご存知の様ですね。あっと、肝心の紐が無いようですね。申し訳ございませんが、アメリアお嬢様、お髪のリボンをいただけませんでしょうか?」


「あら、良いわよ。騎士に渡すリボンの様ね、セルマン」


 アメリア嬢は、そう言って自分の髪からリボンを外し、セルマンに渡した。

 彼は、嬉しそうにそのリボンを優しく手に取り、胸に抱いた。


「セルマン、どうしたの?」


 そんなセルマンの様子に戸惑ったアメリア嬢は、首を傾げて彼を見た。


「いえ、何でもございません、お嬢様」


 あわててセルマンは、アメリア嬢に言った。


「では、セバス。あなたは、私のリボンを付けなさいね。腕に結ぶのと、腰に結ぶのとどっちが……って、リボンは腰には短すぎるわね。左上腕で、良いかしら?」


「はい、心臓に近いので、そちらがよろしいかと。イースタン公爵令嬢様」


「セルマン、セバスには心臓が無いんたけど」


 何で心臓?心臓に近いと良いことがあるのか?

 私は、セバスが嬉しそうにリボンを掲げてくるくる回ってるのを止めて、リボンを取り上げ、左上腕に巻いてやった。


「セルマン、リボンを私に渡してちょうだいな。結んであげるわ」

 

 片手で一生懸命、自分の左腕にリボンを結ぼうとしていたセルマンから、アメリア嬢はリボンを取り上げて結んでやっていた。セルマンの上腕に背が届かないアメリア嬢の為に、彼は腰を屈んでまでして結んでもらっている。


「ねえ、セルマン、どうして左腕にリボンを巻いて欲しいの?」


「心臓は、私の心です。お嬢様。お嬢様がなるべく私の心の近くにいる様に、お嬢様のリボンを左腕に巻いて欲しいんです」


 セルマンがアメリア嬢を見る目は、優しげで、大切な何かを見守る様な、そんな感じがする。


「ベル、私の分のリボンは無いのか?私の心の近くにも、ベルリーナのリボンを結んで欲しいのだが」


 いや、何でライ殿下の分が必要なんですか?

 ほらほら、という風に殿下が私の前に左腕を差し出してきた。

 はいはい、殿下も結んで欲しいんですね。まあ、いいですけど。

 私が殿下の左の上腕にも、私の髪にもう1つ結んでいたリボンを外して結んであげると、殿下は照れながらニヤニヤと自分の左腕を眺めていた。


「アンナ、ベルの髪に私のリボンタイを着けたいんだ。ベルの髪を直してくれるか?」


 何処からかブラシや櫛、鏡等を取り出したアンナは、素早く私の髪型を、リボン1つで飾れる様に直した。


「ほら、ベル。私がリボンを結んであげるよ」


 そうして私は3本目のライ殿下リボンタイコレクションをゲットした。

 ライ殿下は、私の髪を1房取って髪にキスをして、エヘヘと笑った。何か、可愛い。


「何をイチャついてらっしゃるのかしら?あなたの侍従見習い?の準備は、よろしくて?ベルリーナ嬢」


 私は、セバスを円の中に連れて行き、命令を下した。


「セバス。この円の中から出る事なく、セルマンの左腕に付いているリボンだけを奪いなさい。ただし、セルマンに大怪我をさせても、セルマンを殺してもダメ。わかった?」


 セバスは、私の顔を見て、ブンブンと頭を縦に振った。

 案山子の良い点は、今までの他の手下に比べて身体が大きいため、私の魔力を蓄積しやすく、複雑な命令を詰め込める事。そして、手足があるので複雑な動きが出来、難解な命令も実行する事が出来る。




「では、始め!」


 ライ殿下が、開始の合図をすると共に、セバスの手がセルマンに伸びた。素早く避けるセルマン。その一方で、右に左にフェイントをかけながら、セルマンはセバスのリボンを掴もうとする。

 しばらくして、円の縁ギリギリに追い詰められたセバスは、その場で空高く飛び上がり、セルマンの頭上高く宙返りして、セルマンの背後に立った。

 セバスは人間では無い。ただの魔法で出来た人形の様な物だ。多少の知能はあるが、それは、あくまでも命令を実行する為のもので、その身体能力も人間では、ない。魔法で動いているのだ。

 だから、おおよそ、人の考え付かない行動を取る。人は、普通、予備動作なしにその場でいきなり頭上高く飛び上がり宙返りして移動は、しない。

 そして、それを目にしたセルマンの思考が止まった一瞬の隙をついて、セバスはセルマンの左腕に付いているリボンを奪った。


「返せ!アメリアお嬢様のリボンだ」


 紐鬼のルールを忘れ、我を忘れて、セルマンはセバスに飛びかかった。

 私の手下には、すべて、自己防衛機能が組み込まれている。それは、私の手下達へのたった1つの愛であり、知能の無い手下達への憐れみの1つなのだ。


 自己防衛機能に従って、セバスはセルマンを空高く放り投げた。


 アメリア嬢が、悲鳴を上げた。殿下や部長達、その場にいた者達すべてが空を見上げた。

 手下は、諸刃の剣なのだ。上手く扱ってやらなければ、すぐに凶器と化す。


「セバス、セルマンを受け止めてらっしゃい。怪我をさせては、ダメよ」


 セバスは、宙を飛び上がり、落ちてきたセルマンを受け止め、ゆっくりと降りてきた。


「セバス、ゆっくりとセルマンを下ろし、地面に立たせてあげなさい」


 実際には、セバスに下ろされたセルマンは、自ら地面には立てず、座り込んだ。まあ、そうなるわよね、普通は。腰を抜かすわよ。


「畜生、アメリアお嬢様のリボンを返せ」


 座り込みながらも、セルマンはセバスの腕を掴み、リボンを取り返そうとした。

 全く、無謀極まりもない。


「セバス、セルマンにリボンを返しておやりなさい」


 セバスは、私の言う通りにセルマンにリボンを返し、セルマンはそれを大事そうに握り込んで胸に抱えた。


「セルマン?」


 アメリア嬢がセルマンに声をかけ、セルマンの側に来て、彼を見下ろした。


「アメリアお嬢様、すみません。負けて、しまいました。でも、お嬢様、私は、本当は、お嬢様にお嫁には行って欲しくありません」


 アメリア嬢は、困った顔をしてセルマンに微笑むと、彼の頭を撫でた。


「私は、まだ5歳なんだから、嫁にいくわけないでしょう?」


 溜め息を吐きながら、アメリア嬢は、そう言うと、涙を流しながらアメリア嬢のリボンを大事そうに抱え込むセルマンを見て、呆れて言った。


「ベルリーナ嬢、この勝負、またしても私の負けよ。私は、使用人に信頼されてないらしいわ。まったく、もう。セルマン、私は大人になるまで、何処にも嫁に行かないから、心配しないのよ?わかった?」


「わかりました……。では、その証に、このリボンをいただいても?」


「いいわよ。あげるから、持っていなさい」


 アメリア嬢は、呆れた様にセルマンの頭を撫で続けた。まるで、アメリア嬢がセルマンよりもずっと年上で、セルマンが私達より小さな子供に見えた。

 セルマンは、アメリア嬢のリボンが欲しかったのだ。アメリア嬢の愛が欲しかったのだ。きっと。

 だから、あえての、紐鬼だったのだろう。

 

 アメリア嬢は、セルマンの頭を、そっと抱いてやっていた。


「公爵令嬢と侍従の、身分違いの忍ぶ恋、なんですね」


「いや。アメリアは、セルマンを侍従見習いとして連れ歩いているが、セルマンは実は伯爵でね。先頃、伯爵夫妻が事故でなくなり、伯爵の妾の息子のセルマンが探しだされた。セルマンの母親も既に病で亡くなっていた為、孤児院で彼は発見された。

 そんな育ちの子供の彼に伯爵としての能力があろう筈もなく、親戚のノースター公爵家に教育の為に預けられたんだが、面倒見の良いアメリアに懐いてしまって、まあ、見ての通りの状態になってしまった」


「ええっと、ライ殿下?セルマンは、アメリア嬢にぞっこん惚れ込んでいる?」


「というか、もう、アメリアはセルマンのすべてかな。早くアメリアが大きくなってそれに気づいてくれないと。このままでは、私は、それに巻き込まれて、セルマンに嫉妬で殺されてしまうよ。もう、来る度にセルマンにスゴい形相で睨まれててね。居たたまれなくて」


「ライ殿下、セルマンは、ストーカー?」


「いや、侍女達が言うには、こう言うのはヤンデレって言うらしいぞ」


「だから、また、殿下そんな言葉を!誰だよ、殿下に妙な知識を教えてる奴は!」


 近衛兵のメナードが、頭をかきむしって叫んだ。





 



「アメリアお嬢様、嫁に行かないで下さいね」


「わかってるわよ。セルマンが、お嫁さんを貰うまでは、私もお嫁に行かないから」


「私が(アメリアお嬢様を)お嫁に貰いますので、そうなりますね。」


「?変なセルマン」




 普通の5歳児に、愛だの恋だのは難しいです。

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