もう1人の公爵令嬢、突撃する
読みに来てくださって、ありがとうございます。
今回、ようやく女の子キャラが増えます。
さて、朝食の時間です。着替えを済ませ、各々の今日の予定を確認したりしながら、朝食を食べます。
我が家では、私の庭の事は誰も口出しをせず、その殆どを私に任せてくれるのが、ありがたいです。特に、昨夜の事なんて、私でもどう説明したら良いのか、わかりませんから。
おそらくガイが
「突然、木が現れて家の2本の木とケンカして、お嬢さんがそれを叱って止めさせた。王都では珍しいですが、辺境ではよくある事です」
と、単純化して報告したでしょう。
叔父上を交えての家族団欒の朝食を済ませ、学園に向かうお兄様への行ってらっしゃいのキスを終え、いよいよ、登城の時間です。
「ベルリーナ、お前が強いのを兄様は知ってるけど、昨日の夜の様な無茶はしないでくれよ。私の心臓が持たない。それと、今度の学園の休みには、登城して挨拶に伺うと、くれぐれも殿下に、よろしく、伝えておいてくれ」
お兄様は、お父様と同じ様な冷気を漂わせながら微笑むと、学園の登園用の馬車に乗り込んだ。
「ベルリーナ、俺には、行ってらっしゃいのキスは無いのか?」
「え?無いですよ。叔父上は一緒に登城しますよね?そもそも、父上にもした事がないのに、どうして叔父上にするんですか?」
思案する叔父上をよそに、私は籠を持ち、父上やお母様と共に馬車に乗り込んだ。
続いて、納得いかなさそうな叔父上が乗ってきた。
行ってらっしゃいのキスは、嫁を貰ってから、嫁にして貰えばいいと思う。
私は、ライ殿下の嫁なので、殿下にするんだから。お兄様は、別だけど。お兄様にお嫁さんが来たら、私からお兄様へのキスは無くなるわね。それは、寂しいけど。
王城に着くと、ライ殿下が出迎えてくれた。
嬉しいけど、婚約者とは言え、第一王子が臣下を出迎えに来ても良いんだろうか?
「ライ殿下、おはようございます」
私がカーテシーをすると、殿下は、両手を広げてニッコリ笑った。
一緒にいた両親と叔父上も、同じく礼をとる。
「おはよう、ベル。おいで」
私と殿下は、昨日の約束通り、お互いの頬に、おはようのキスをした。
5歳とは言え、死に近い経験があった殿下、それと私には、これが生きている証の様な気がする。
新しい朝が来て、好きな人と一緒にいる。それが、幸せ。
「ど、どういう事ですの!?ラインハルト殿下!その、は、はれ、はれのち?ですわっ!」
私の後ろから、私と同じ様な背丈で栗色の髪、はでな緑のドレスを着た令嬢が叫んで現れた。
殿下は、私を抱き締めつつ、遠い目で空中を見ていた。
え~と、はれのち、晴れ後?晴れの血?はれの……
「ひょっとして、破廉恥じゃないのか?」
私の斜め後に付いていた、叔父上が言った。
「そ、そうですわ。その、はれんち?ですわっ殿下。」
ああ、破廉恥ね。破廉恥。まあ、確かに私と殿下は5歳児だから許せるかな~と思うけど、大人が玄関ホールで頬にキスして抱き締めあってたら、アウトだわ。
「あー、ベル。こちらは、私の母方の従姉妹のアメリア・ノースター公爵令嬢だ。アメリア、こちらはベルリーナ・イースタン公爵令嬢、私の嫁だ」
「よ、嫁?嫁ですの?」
アメリアは、おののきながら、ショックを受けた様な顔した。
「はじめまして。ラインハルト殿下の婚約者のベルリーナ・イースタンと申します。」
そう言いながら私がアメリアに微笑むと、彼女は、私を睨み付けた。
「ラインハルト殿下、どういう事ですの!?私が、殿下の婚約者になる筈でしたのにっ!!」
おやおや?どういう事かと思って殿下の顔をみると、殿下は顔をプルプルと横に振って、焦った顔をしている。
「私は、そんな話は知らないな。誰かから聞いたこともない」
「ラインハルト殿下、一昨日のお茶会で、そう決まるはずだったんですのよ!それをこのどこの牛の骨ともわからない、泥棒犬がっ!」
興奮して、手に持った扇をアメリアは振り回し始めた。
危ないって、誰かに当たるから。
「落ち着け、アメリア。確かに、お茶会では、私の婚約者候補と側近候補を決める筈だったが。
それに、どこの牛の骨じゃなくて、馬の骨。それに、泥棒犬じゃなくて、泥棒猫だ。相変わらずだな、まったく」
私を後ろに庇いながら、殿下はアメリアの扇を取り上げた。
それにしても、新鮮な語録を持った令嬢ね。
「それは、私のお気に入りの扇でしてよ、ラインハルト殿下。返して下さる!?」
扇の武器、いいな~。そう言えば、魔王だった頃に爺やがハリセンとか芭蕉扇とか言う武器の話をしてたわね。
「で、誰が、お前が私の婚約者になるって言ってたんだ?アメリア」
「お祖父様ですわっ。ね、お祖父様。そうですわよね?」
私達の後方で、お互いにガンを飛ばしていた父上とおそらく当のノースター公爵が、こちらを見た。
「あなた、冷気が飛んでましてよ」
「気にするなリリアーナ。私が不機嫌だと、周りにわかって良いのではないか?」
ベルリーナの父親のイースタン公爵は、大抵、わざと冷気と威圧を振り撒いている様です。




