公爵家の庭には、何かが棲んでいる
読みに来てくださって、ありがとうございます。
この話も、書きたかった話の1つです。書いてて楽しいな~( ≧∀≦)ノ
おはようございます。元魔王の公爵令嬢、ベルリーナです。公爵家の朝は、男の野太い悲鳴から始まり……
あれ?真っ暗……いや、カーテン越しに、青白い光が庭を覆ってる?
頑張って分厚いカーテンを開けると、そこには別世界が。
いや、現実逃避は止めよう。
青白い光を基として、色とりどりの怪しい光に囲まれて、バトルアックスを片手に蔦に絡まられて宙ぶらりんの庭師のガイと、三体の樹が、四つ巴で戦っていた。
まさに、魔界の戦い。三本の木ですらない。禍々しくも膨れ上がり、枝をワサワサと使って闘うそれは、正に三体の樹だ。
「お嬢様~!危ないから、下がってて下さい!」
やっと靴を履いた私が、えっちらおっちら庭に通じる窓を開けて外に出ると、ガイが叫んだ。
あら?ちょっと余裕?
ガイ、絶体絶命のピンチか!と思いきや、そうでもないらしい。
まあ、ここで、飼い主の余裕を見せておくか。
パンっと!私は、威圧を載せて思いっきり手を叩いた。
「お座りっ!」
慌てシュルシュルと普通の木に戻った三本の木は、ピシッと直立した。
まあ、木は座れないので。
「ペッしなさい、ペッ!」
その内でも一際大きな一本の木に私は命令して、まさに、下半身をウロに飲み込まれようとしていたガイを、吐き出させた。
「まったく、お行儀の悪い。ハウスよ、ハウス」
二本の木--リンゴの木と桃の木は、元の場所にスゴスゴと戻った。
大きな穴に根っこを下ろし、自分の一部の根を使って土をかける。器用な奴らである。
「いやー、さすがのあっしも、どうなる事かと思いやした」
「公爵家の騎士達は、どうしたの?ガイ」
「皆さん、人外魔境での戦いの経験は皆無でしたので、足手まといにならない様に、外で待機してもらってやす」
いや、ガイ。あんたは、どんな所で経験積んだの。
「魔法薬剤師長から言われてよく行ってた、魔界での材料採取を思い出しやすね~」
ああ、ごめん。私が前世の魔王だった時にポコポコ産み出した奴らだったわ、それ。結構強い奴もいたみたいだけど、それと戦って五体満足で生きてるって、正に強者よね。
まあ、普通の騎士には、ムリかもねー。
それにしても、やはり、昨日の夕方に植えた庭の種達は、いつもの野菜や薬草では、無くなっていた。
葉っぱ全体が怪しく夜光虫の様に光り、花には、口が生えていて、光に吸い寄せられた虫を食べてる。
試しにラディッシュを抜いてみると、発育不良で細いが電飾の様に赤く光って実をくねらせていた。
こんなん食べたら、身体中が光るんじゃない?むしろ、食べたくないわ。
「いやー、災い転じて福と成すって奴ですかね~。この庭の植物を見たら、魔法薬剤師局の奴ら、飛び上がって大喜びで踊り出しやすぜ」
額やら腕やらから血をダラダラと流して、ガイはカラカラと大笑いした。
相変わらず、頑強な男である。
狂喜乱舞する魔法薬剤師局、また、魔法省ぐるみで自分を使った人体実験に励むんだろうなあ。
「それにしても、これ、どうしやすか?」
庭にやってきた樹の幹をよく見ると、あいあい傘が書いてあった。その下には、勇者ヘンゼルドと、魔王マオリーナと書いてある。
前世の私が、名前が無いと言ったら、勇者は悩んだ末に、私に『マオリーナ』と言う名を付けてくれた。魔王→マオリーナ……頑張ったな、勇者。
樹よ、お前が私の元に来たのは、私が昼間に勇者とあいあい傘を書いたのを思い出したからだろうか?
って、これ、ヤバくない?歴史の証拠物というか、超極秘事項じゃないのか?
……まあ、誰も見ないだろうし。いいか、このままで。
庭(家庭菜園)の真ん中に、でっかい樹が生えているのも邪魔なんで、ちょっと端の方に樹に移動して根を生やしてもらった。
「まあ、ここなら他の農作物の邪魔にならないでやすよ」
そう、ガイが請け負ってくれた。
せっかく、私の所に来てくれたんだから、大事にしてやらなきゃね。
ところで、お前は何の木だっけ?
そう聞いたら、樹は、『修行したので人参果が生るようになりました』と、しれっと私に伝えてきた。
……人参果……そんな物が出来たら、更に怪しい庭になるわっ!!別の物にしてちょうだい!
どこの庭に赤ん坊そっくりの実が生るって言うんだよ、まったく。
「ガイ、怪我は本当に大丈夫?」
「こんなのは、洗って薬塗っておけば、すぐに治りやすよ。もし長引くようでやしたら、ベビーキャロットマンドラゴラの酢漬けを食べとけば、一発で治りやすよ」
常備薬かよ、うちのマンドラゴラの酢漬け。