昔々、勇者がいました
読みに来てくださって、ありがとうございます。
前話に続いて今回の話も、ちょっと楽しんで書いています。
お茶の時間となりました。
お茶の時間、大事です。昨日のお茶会でも、美味しいお菓子がたくさん出ました。
今日のお菓子はキャロットケーキですか。うまうま。
「最近、私の母上は、美容に良いからと野菜の菓子に凝っていてな。毎日の様に、色んな野菜の菓子が、お茶の時間に出てくる」
「キャロットケーキ、美味しいですよ、ライ殿下」
「だが、ニンジンだぞ、ニンジン。まあ、ピーマンのケーキよりは、良いだろうが。ニンジンがお菓子に合うのか?」
「ライ殿下、好き嫌いしていると、勇者みたいに強くなれませんよ?はい、あーん」
「あ、ああ。そうだな、ベル。……あーん」
「いつも、お兄様にする様に、あーんしてしまいました……」
「これが、嫁からの『あーん』……
と言うか、ベル、自分の兄に、いつも『あーん』しているのか!?」
殿下は赤くなりながら、私が殿下の口に運んだケーキを、頬張った。
だって、お兄様の嫌いな物を私がお兄様に『あーん』して食べさせてあげると、ちゃんと食べるんですよ。
「じゃあ、私からは、このクッキーを。ほら、ベル、『あーん』」
『あーん』、ぱくっ!こ、これは!?この味は!もぐもぐ。
「ライ殿下、こ、これは、『勇者のクッキー』?」
「よく知っているな、ベル。これは、先祖代々伝わる『勇者のクッキー』だ。昔から変わらぬ伝統の味を、城の料理長が守り抜いている」
ああ、懐かしい。この味だ。これは、勇者が魔王だった私によく作ってくれた、あのクッキーの味。
「そうだな。魔王の話をしてくれた礼に、我が王家に伝わる勇者の話をしてあげよう」
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昔々、ヘンゼルドという王子が、いました。
ヘンゼルド王子は第二王子でしたが、小さな頃から頭が良く、剣も強く、魔力も強くて、気さくで人気者でした。
第一王子のビガンゼルドは、良くも悪くも平凡でしたが、顔だけは美しく、これまた第二王子とは人気を競っていました。
第二王子は、兄の第一王子が大好きで、いつも言うことを聞いていました。
カボチャとクッキーが好きな兄の為に、カボチャクッキーを城の料理長と一緒に開発したり(これが勇者のクッキーだな)、魔鳥の羽ペンが欲しいと兄が言うと、それを狩って羽ペンを作り、兄の為に何かと尽くしていました。
そんなある日、王が急な病で死に、成人していた第一王子が王となりました。
ビガンゼルド王は、第二王子を勇者に任命し、辺境の外の魔国にいる『悪の魔王』を討伐する様に命じたのでした。
驚いたのは、第二王子の双子の妹グレーティアです。
「はあ?別に攻めて来たとか被害があるじゃ無し、唯一の王位継承者のヘンゼルド兄さんを魔王退治に行かせるなんて、信じらんない!聖女の私が行ってやるわよ!」
グレーティアは、聖女でしたが、かなりの強者でした。慌てた兄の勇者(に勝手にされた第二王子)は、幼馴染みの魔術師と聖騎士と共に聖女を追いかけたのでした。
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「何だか、どこかの女を思い出すんですが。聖女の服って、確か白い服でしたよね?」
「そうだな、ベル。話しながら、私もそう思った。まるで魔王の話に出てきて、騒いでいた『白い服の女』の様な気がしてきた。聖女の杖で勇者の頭を叩くとか、普通の聖女ではないな」
殿下は、そう言うと、思案げに胸の前で手を組んで、また話し始めた。
「この後、勇者は魔王に食べられ、腹の中に剣を勇者が突き刺して相討ちとなり、勇者は帰らぬ人となる。そして、聖女達は魔王の角と勇者の剣を持って帰り、王に献上したのでした。めでたしめでたし」
「いや、勇者は魔王に食べられ、腹の中に……って、それ」
「メナード!言うな!それ以上、何も言うんじゃないぞ!相手は、5歳児だぞ」
何故か、エディが慌ててメナードを黙らせた。
「実は、この話には、後日談があるのだ」
ライ殿下は、とつとつと話し出した。
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勇者が死んだ後、王に子どもは1人もいませんでした。王妃の他に何人もの側妃や妾を迎えたものの、皆、決して王の子どもは産めませんでした。
仕方がないので他国に嫁に行った妹の聖女に、跡継ぎの王子を1人寄越してくれるように
年老いた王は頼みましたが
「はあ?自業自得でしょ?何言ってんの!?」
と、けんもほろろに言われてしまいました。
「そうねえ、でも、しょうがないから、お告げをしてあげるわよ」
ニヤリと笑った聖女は、魔国の淵にある一軒家に行けば、解決するかもね?と言い、王は母方の従兄弟の公爵の孫を向かわせました。
するとそこには、王と同じ金の髪に緑の瞳の、美しく妖艶な乙女が住んでいました。
「……結婚してくれ」
「いきなり人の家に来て、何言ってんの!?」
公爵の孫は、一目で乙女に恋に落ち、乙女に家から蹴り出されました。
「もう、何も他に考えられない。とにかく、一緒にいさせてくれ」
公爵の孫は、乙女の家の側にテントを張り、毎朝、彼女の家に押し掛けてはプロポーズし、薪割りをしたり畑仕事や家事を手伝い、結構楽しく暮らしていました。
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「ライ殿下、それって、ストーカー?」
「押し掛け女房?いや、男だから押し掛け旦那じゃないか?ベル
うむ、この手があったな。ベルが王城に住めないなら、私が毎朝、公爵の家に……」
「どっちもダメなやつですからね!ライ殿下。真似しちゃいけません!」
アンナが慌てて殿下を嗜めた。
「それで、乙女と公爵の孫はどうなったんです?ライ殿下」
「全く息子が帰ってこないんで業を煮やした公爵の孫の母親が、乙女の家に押し掛け
『この莫迦息子が!』
と、母親は彼の頭をはたいて、足蹴にして土下座させ、乙女を説得して二人を王城に連れ帰ったらしい」
「ラインハルト殿下、中々やりますね、その母親」
エディが、感心したように、フムフムと頷いた。
「乙女は、どうなったんです?ライ殿下」
乙女の行く末が、気になって仕方がない。
「ああ、それがね、ベルリーナ。魔力鑑定の結果、彼女は勇者(第二王子)の娘か孫だと認められ、我が国初の女王になったんだ」
「ライ殿下、それって、ひょっとして」
「うん。私のひいお祖母様のエルディアナ元女王陛下の話だ」
紅茶を飲みながら、殿下は澄ました顔で、そう言った。
「「「結構、最近の話だった!!!」」」
殿下以外の皆が、同時に叫んだ。
「と言うことは、母親に頭をはたかれ、足蹴にされて土下座させられた公爵の孫って」
「うん、私のひいお祖父様の事だね、アンナ」
「あの脳筋の元国軍総司令官の王配の!?どうやって結婚したのか、前から不思議だったんですよ!」
「ひいお祖父様の言うには、押せ押せで、とにかく押しまくって、本人が呆気に取られている間に結婚を承諾させたんだそうだよ、メナード」
にっこりと笑って、殿下は、そう締めくくった。
私は、魔王と、勇者の孫のエルディアナが、結構幸せに暮らせたようで、ちょっぴり嬉しくなった。
「そう言えば、エルディアナ様達は、最近はどちらにいらっしゃるんですか?お見かけしませんが」
アンナが、殿下にお茶のお代わりを継ぎながら、そう聞いた。
「ああ、引退して、辺境伯の所で、二人とも元気に魔獣退治をしてるよ」
「「「二人とも、まだまだ現役だった!」」」
アンナとエディとメナードが、びっくりして同時に言った。
まあ、元気なら、いいんじゃないかな。
めでたし、めでたし。
勇者側の話と子どものその後を書いてみました。話的には、前話の魔王の話が好きです。
よく考えたら、ラインハルトは、魔王の子孫になるのか(;・∀・)




