王子だって、恥ずかしい事が、ある
引き続き、5歳児同士で庭の隅っこでうにゃうにゃしてます。護衛は、恐らくひっそり眺めているかと。
「ところで、イースタン嬢、いや、ベルリーナ嬢と呼んでも良いだろうか?」
私の目を見つめながら、キラキラしく第一王子が言った。
「第一王子殿下、私の名前をご存知で?」
「先程、私に挨拶してくれた折りに、名前を教えてくれたではないか」
あー、そう言えば、今日は、第一王子主催のお茶会。王子の登場と共に、貴族の子供達が1人ずつ王子に挨拶に向かいましたねー。勿論、私ももれなく。
「私のことも名前で呼んでくれ」
「…滅相もございません」
更に面倒なことになりそうなので、遠慮したい。
「ほら、呼んでみよ。そうすれば、その令嬢にもあるまじき座り方をしているのを内緒にしてやろう」
私もヤンキー座りしてますね、いつの間にか。魔王にもあるまじき…おっと、公爵令嬢でした。
でも、王子を名前でなんて呼べませんよ?
王子の顔が訝しげに曇った。
「…よもや、私の名前を知らないとか」
ええっと、正解です。笑って誤魔化してもいいですか?えへへへへ。
「所で、ベルリーナ嬢」
「…はい、ラインハルト殿下」
ここに至るまでに、私は、ラインハルト殿下から頭のてっぺんに拳骨を食らって、10回、殿下の名前を呼ばされた。淑女に対する紳士の態度ではないのではないか?
「ベルリーナ嬢は、魔術師団長の姪だな?」
「はい、そうですが。それが、何か?」
「ベルリーナ嬢も、魔法に詳しいのか?」
「まあ、普通の5歳児より詳しいですね」
何せ、私、元魔王ですから。ふふん。
「令嬢のくせに、ドヤ顔をするんじゃない。…ちょっと内緒の話なんだが。今からする話を口外したら、私の名前を知らなかった件を公爵にばらすからな」
私は思いっきり縦に首をブンブン振った。うちのイースタン公爵である私の父上は、元魔王の私を上回る怖さなのだ。
「実は、毎晩、怖い夢を見るのだ。誰もいない筈の部屋に、私が寝たら誰かがいる気がするのだ」
「護衛、ラインハルト殿下の部屋の扉の外にいるんですよね?」
「隣の部屋には、付き人もいる。恐らく、影も潜んでいる筈だが、皆からは、私以外は部屋に誰もいないと報告が上がっている」
「心配なら、護衛を増やしてもらうとか?」
「あまり何度も言うと、臆病者の王子と言われそうじゃないか?」
評判は、大事ですね。私も、魔王の時に臆病者のレッテル貼られないように頑張ってました。それに、王子からちょっと魔法の臭いがします。何か嫌な残り香っぽいやつ。くんくん。
「何、匂い嗅いでるんだ?恥ずかしいから、止めろ」
殿下が、顔を赤くして腕で顔を隠しつつ、少し後ずさる。私は構わず、殿下の首の辺りに顔を近づけて匂いを嗅ぐ。くんくんくん。
「私、魔術の臭いに敏感なんです。闇魔法っぽいですね。ラインハルト殿下、精神攻撃されてるかも?」
殿下の目が、大きく見開いた。キラッキラのお目目がでかいと、何か可愛い。闇魔法の臭い以外は、殿下はいい匂いです。もうちょっと嗅いでても良いかな?
ちょっと変態臭がする元魔王令嬢になってきました。でも、ちびっこって、よく匂い嗅いだりしますよね?しません?