元魔王な令嬢は、紙ひこうき軍団を飛ばす
読みに来てくださって、ありがとうございます。
頑張って書き進めています。
いよいよフライトです。
「さて、次は呪文です。ライ殿下、さっき紙ひこうきを飛ばした呪文、覚えてます?」
「私は、いつも、記憶力が良いと教師に誉められるのだ
『飛べ飛べ紙ひこうき、宛名の元へ。他の誰の手にも渡らず、真っ直ぐ飛んで行け!』」
そう言いながら、殿下は自分の紙ひこうきに手をかざした。
「おお~っ、ばっちりですね、ライ殿下。魔力も、紙ひこうきにしっかり籠ってます」
皆から拍手が出る。ぱちぱち!殿下、上手。
殿下は、ちょっと照れて、腰に手を当ててふんぞり返った。
「さて、魔道具製作部長は、普段どんな風に魔術を使いますか?」
「ベルリーナ嬢が、どういう風に魔術を使っているかは知らないけど。僕は、魔道具に対しては、こんな風に、出来上がった物に指を一本付けて『よっ』とか『はっ』とかかな?」
「無詠唱かよ……」
メナードが、独り言る。
まあ、魔道具製作部長の肩書きは、伊達じゃないと言うことか。
「先程の殿下の呪文で、部長には内容はわかったと思いますので、お好きなように魔力を込めて下さい」
「ベルリーナ嬢。僕には、えらく適当だけど?」
「え?部長、出来ますよね?」
「要は、到着地の場所指定、いや違うな…人物指定と探査能力、物質の運動量の継続?慣性?と回避能力?うーん?ベルリーナ嬢、お手本見せて?」
「じゃあ、皆、廊下に出て下さいね」
近衛兵以外は、廊下に出た。廊下には別の近衛兵がいるから、彼らはそのまま部屋に待機中。
「紙ひこうきを、こう手に持って
『行け!』
こういう風に飛ばします。終わり」
「ほぼ無詠唱じゃないか、ベルリーナ嬢も」
「部長も似た様なものでしょう?『行け!』って言うと、気分が出るので、ちょっと楽しいんです」
「ああ、ベルリーナ嬢は、感覚で魔力を込めて飛ばしてるわけだ」
「そう言うことです。ライ殿下、どうしました?」
目を大きく真ん丸に見開き、殿下は私を見ていた。
あれ?どうしたの?
「どうして私の場合は、呪文が長いのだ?」
「殿下の場合は、初心者なので、まず、手下…紙ひこうきにどうして欲しいのかをしっかり伝える事が必要なのです。そして、頭の中に宛名の人物をしっかり思い浮かべる事」
「私も、慣れたら無詠唱が出来ると言うことか?」
「うーん、どうでしょう。まずは、練習ですね。
でも、実は、私はライ殿下に、あの呪文を唱えて、私にお手紙を送って貰えたら良いな~と思って、あの呪文を考えたから」
「そうなのか?」
「だって、好きな人を想って、自分の心を乗せてお手紙を飛ばすって素敵じゃないですか?今度、私にもお手紙下さいね」
「じゃあ、あの呪文はベルリーナから私への愛の呪文なのだな。と言うわけで、魔道具製作部長、あの呪文は私のものだから、使うなよ!」
殿下は、部長に振り向いて、キッと睨んだ。
「5歳にして、既に独占欲満載ですね、殿下。良いですよ、僕は心の中でコッソリさっきの呪文を唱えますから。
さて、先ずは試しに、うちの助手に紙ひこうきを飛ばしますね。多分、すぐに本人が走ってくると思います。
『(飛べ飛べ飛行機……)行け!』」
そう言って、部長は紙ひこうきを飛ばした。ひょろひょろと。そして、紙ひこうきは、そのまま、ひょろひょろと与太つきながら、廊下を飛んでいった。
「部長……先ずは、飛ばす練習から始めましょうか」
「ベルリーナ嬢、手取り足取り教えてくれる?」
「嫌です。部長は大きいので、私には届きません!」
「さて、父上の顔を浮かべて
『飛べ飛べ紙ひこうき、宛名の元へ。他の誰の手にも渡らず、真っ直ぐ飛んで行け!』
父上、喜んでくれるかな?」
「ライ殿下、何て、書いたんですか?」
「今回の紙ひこうきの飛行実験の経緯と、ベルリーナを嫁にする事によってどんな利益を得るか、どんなに私がその事を願っているかを切実に書いた。
母上には、同じく嫁の許可願いと、お腹の赤ちゃんをご自愛下さい。無事に元気な私の弟か妹が生まれるのを待ってます、と書いた」
嫁、嫁、嫁って。ブレませんね、殿下。
そうこうしている内に、紙ひこうきを飛ばした前方から、凄い勢いで人が駆けてきて、部長の胸倉を掴んだ。
「仕事サボって、何処をほっつき歩いているんですか?仕事、山積みなんですが!?」
「あ、無事に紙ひこうき届いたんだね。
殿下、ベルリーナ嬢、紹介します。僕の助手のジョッシュです。もう、その名の通りですよね?」
「名前が、ジョッシュと言うのか」
「失礼致しました、殿下。そして、イースタン公爵令嬢。私、魔道具製作部長助手のジョッシュ・アベントと申します。この度は、うちの部長が御迷惑をお掛けしまして、申し訳ございません。」
ジョッシュ助手が、慌てて殿下に礼をした。
ジョッシュ助手、もう、助手って呼んで良いよね?
紙ひこうきを飛ばすのが上手になった部長は、自分の作った紙ひこうきを、どんどん飛ばして行った。
「さて、僕の紙ひこうき、今度は、誰の所に一番に到着するかな?」
部長が片手を自分の腰に当て、もう一方の手を目の上にかざして遠くを見ると
誰かが冷気を伴い、ずんずんずんずんと歩いてきた。
この冷気は!
父上!?
……戦略的撤退しても、良いですか?
「部長、紙ひこうきは何体飛ばしたんだ?」
「送ったら面白そうな所、全部だよ。助手」
「侍女長にも送ったんじゃないだろうな?後始末は、部長が自分で何とかしろよな」
((( ;゜Д゜)))




