伝説の勇者は、遺産を残したかった
読みに来て下さって、ありがとうございます。
隠し部屋の探検の続きです。他に、どんなものが出てくるでしょうか。
『まあねー。勇者ゴリアドスは、後世に遺産を残したかったんだよ。自分が死んだら、自分の知る知識が失われるなんて、勿体ない。知識まで死ぬなんて、やってられない。
家に籠って魔法の研究ばかりしている末の息子に、ちょっとばかし、お願いをしたんだ。
「私の研究を、後世に残してくれるかい?」
そうして、この部屋は、保存されたんだ。ここは、謂わば、《勇者ゴリアドスの博物館》なのさ』
名無しの剣、もとい、名無しのペーパーナイフは、トントンとジャンプしてライ殿の手の中に入った。
『おい、誰か。王子さんを抱っこして、さっきの花の絵の前まで連れてってくれ』
メナードが、ライ殿下を抱っこして、絵の高さまで引き上げた。
『俺の柄の部分の後ろで、優しく、絵をノックしてくれ』
ライ殿下が、名無しのペーパーナイフの言う通りに絵をノックすると、花の絵が、ゴツい男の顔の絵に変わった。
メナードは、ライ殿下を下に下ろした。
『ご紹介しよう。前我が主のゴリアドスだ』
『初めまして。私が、今、紹介に上がったゴリアドスだ。よろしく。さて、皆さんは私に、どのような御用があるのかな?』
絵の中の男、ゴリアドスが、口を開けて、喋った。
私は、呆気に取られて、口が開いたまま塞がらなかった。
「スゴい……この絵の魔道具を作ったやつは、天才だ」
魔道具製作部長が、呟いた。
「私の製作者を誉めてくれて、ありがとう。嬉しいよ」
絵の中のゴリアドスが、ニッコリ笑った。
「何か、私に質問は、あるかい?」
もちろん、有りますとも。不思議でならない事が有る。
「あなたは、本物のゴリアドスなの?」
これが、私が一番知りたい事。この絵画が元人間なのか、ただの知識の集合体なのか。さあ、どっち?
「いや。私は、ゴリアドスの影に過ぎない」
擬似生命体って事?何れにせよ、元人間では、なさそうね。良かった。
親の魂を、絵の中に息子が封じ込めたんだとしたら、ちょっと怖いもの。
「魔法生物って、何なんだい?」
部長が、ゴリアドスの絵に聞いた。さっきの蜥蜴の事ね?それは、私も知りたい。
『魔法生物とは、魔法によって作り出された生物の事で、一種の擬似生命体の事である。詳しくは、本棚の『魔法生物、その作成方法と観察日記』を読んでくれ』
ゴリアドスの絵は、図書目録なの?
「そもそも、伝説の勇者ゴリアドスとは、どんな事をした人なんだ?」
ライ殿下が、質問した。ゴリアドスの絵が、満面の笑みになった。
『詳しくは、本棚の『ゴリアドスの一生』を読んでくれ。
今から語るのは、そのダイジェスト版である。
ゴリアドスは、ヨハン・グリーナリー王の時代に生まれた。彼は、魔族の研究者で、いつか魔界に行って、魔王に会うのが夢だった。
そもそも、魔族や魔獣は、どうやって生まれるのか。その頂点に立つ魔王とは、どういう能力を持っているのか。彼は、知りたかった。
学校を卒業したゴリアドスは、自作の色んな魔道具を持って旅に出て、魔族の研究をした。
やがて、そんな彼の話が王様に伝わり、勇者や、聖女、魔法使いと共に魔王退治に行くことになった。
だが、ゴリアドスのアドバイスを聞かなかった勇者は魔王に敗れ、代わりに伝説の剣を手に取ったゴリアドスが魔王を討ち取り、勇者になった。
魔王退治の褒美に、国王はゴリアドスを辺境伯にして、土地を与えた。聖女を妻に迎えたゴリアドスは、辺境で様々な研究を続けて、この地に骨を埋めた。
以上が、ダイジェスト版だ。詳しくは、本を読んでくれ』
白じいが、にゃあと、鳴いた。任せておいて欲しいのだろう。
「名無しの剣は、誰が作ったの?」
ゴンザレス君が、ゴリアドスの絵に聞いた。魔力が多くはなくても、ゴリアドスの絵の声は、誰にでも聞こえるらしい。
『ドワーフ族とゴリアドスが協力して作り上げた。ドワーフが剣を打ち、ゴリアドスが魔力を込め、魔王の性質からヒントを得て、作り上げた。参考資料として、『ドワーフ一族の習性と生活』を読んでくれ』
うん。やっぱりこれは、喋る目録だわ。でも、どうして、名無しの剣は、私達にこの絵画と喋る事を勧めたの?
「ねえ、名無しの剣。貴方、何か隠してるでしょう?何を隠してるの?何がしたいの?」
名無しの剣は、ライ殿下の手の中で沈黙した。
「ライ殿下、名無しの剣から手を離して。今すぐ」
ライ殿下は、私の声を聞いて、慌てて名無しの剣を足元に落とした。メナードが、ライ殿下を抱き上げて、剣から離れた所に連れて行った。ハジェスは、私を抱き上げ、お兄様に手渡し、同時に闇魔法で檻を作り、名無しの剣を拘束した。
「ちぇっ、もう少しだったのにな」
名無しの剣が、呟いた。
「いやー。前女王陛下は、人使いが、荒いな~」
「本当に、そうだね。お陰で、探検に皆と一緒に行けなかったよ」
「俺も、ラインハルト殿下に置いていかれてしまった。まあ、護衛は他にもいるんだが」
「おぉ!ここから隠し通路に入るんだな。よし、行くぞ。イグナート、後に続け」
「はいよー。ジョンブル。エディさん、お先に~」
「おい、待て。護衛の俺を、置いて行くなよ」
ドワーフ二人組と、盗聴犯人の住みかに置いて行かれたエディ、間もなく合流です。




