伝説の勇者の剣、アポカリストだそうです
読みに来て下さって、ありがとうございます。
皆で秘密の部屋を探索中です。
その剣は、叫んだ。
『我こそは、伝説の勇者の剣アポカリストである』
『伝説の勇者』って、勇者の事だろうか。勇者、そんな剣、持ってたかしらね。
私は、ライ殿下を見てみた。ライ殿下は、肩を竦めて首を横にプルプル振った。
知らないよね~。
『何と!不敬であるぞ。貴様らごときでは、話にならん。王族を、呼んで参れ!』
ひいお祖父様~出番です。
「どうした、ベルリーナ。ひいお祖父様に、ご用かい?」
私が、黙ってアポカリストを指差すと、ひいお祖父様は、壁からアポカリストをむんずと掴み、誰もいない場所で振ってみせた。
「ふむ。中々、良い剣だ。バランスもいいし、長年放置されたままなのに、錆びも無い。重さも長さも、私には丁度良いな。ベルリーナには、でか過ぎるが」
あれ?ひいお祖父様は、わかってない?
『おい、放せ。お前では話にならん。王族を呼べと言っておろうが』
アポカリストは、だだっ子だな~。王族でしょ。ひいお祖父様で、いいでしょう。
「ひいお祖父様は、元王配よ」
『直系の王族でないなら、話にならんわ。それに、こいつでは、無理だ』
うるさい剣よね。まったく。
あれ?ちょっと待って?よく見たら、ゴンザレス君もアポカリストの方を見てない。壁に掛かってるもう一本の、ショートソードを見ている。
「えーと、この中で、さっきから変なおじさんの声が聞こえている人?」
おおっ!ひいお祖父様、ゴンザレス君、メナード、ネトラス以外は手を上げた。
「ひいお祖父様は、ひょっとして、魔力の量が少なかったりします?」
「まあ、私の魔力はそこそこだが、筋肉と体力だけは、誰にも負けん」
うん、今は、筋肉も体力も、要らないかな。
「因みに、魔力耐性も、ずば抜けてスゴいらしいぞ。以前、エルディアナに褒められた」
ほほう。魔力耐性が高いから、精神支配もされにくいんだ。確かにそれは、スゴい。
「ベル、私がそいつと話そう。アポカリスト、私は王太子のラインハルトだ」
『そうか、お前、ちょっと私を持ってみ……小さいな』
「小さくは、ないぞ。5歳の割には大きいと言われて……ないな。普通だ、普通」
うん、普通だよね。私とライ殿下は、同じ5歳で、身長も同じ位だし。
「ひいお祖父様、そいつをブンいブン振ってちょうだい」
『ひぃ~。止めろ~。理由もなく振り回すな』
ライ殿下の悪口を言う奴は、こうよ!覚えておきなさい。プンプン。
ライ殿下は、憮然としながらもアポカリストの話を聞いていた。白じいは、なに喰わぬ顔で、本棚にある本を片っ端からドンドン読んでいた。
『主、もうちょっと待っておれ。今のところ、その様な記述には出くわしておらん』
「で、王族がどうしたんだ?アポカリスト」
『王族に、わしをここから持っていって貰おうかと思ったんだが、その様に小さくては、ムリだな』
「まあ、そうだな。私には、お前は大き過ぎる。せめてお前が、お前の隣に飾られていたショートソードくらいの、大きさなら何とかなったんだか」
『え!?俺?とうとう、俺の時代がきた。来た来た来た来たーっ』
あ、こっちもしゃべるんだ。
『俺の名前は『名無しの剣』だ。宜しくな。俺とアポカリストは二振りとも、勇者の持ち物だったんだ』
「勇者の名前は?」
『さあ。皆、そいつの事を『勇者』としか呼ばなかったからな』
悲しい話だ。ただ、勇者とだけ呼ばれるなんて。私の勇者は、ヘンゼルドという名前があったし、前世では、私もちゃんと勇者の事をヘンゼルドと呼んでいた。
「名無しの剣は、名前が欲しいの?」
私が、そう聞くと名無しの剣は、とつとつと、答えた。
『いや、名無しの剣と言うのが、俺の名前だからな。気にしなくて良い。ただ、ここにいると退屈なんだ。鎧兜たちは喋れないし。俺とアポカリストは、外に出て、昔のように色んな物を見て、色んな事を感じたい。ただ、それだけだ』
アポカリストは、ギャンギャン騒ぎながら、ひいお祖父様に振り回されていた。
「アポカリスト、大人で剣を扱えて君達の声が聞こえる人が、いる。私と一緒に、ここを出るか?」
ライ殿下が、アポカリストを見上げて話をした。ひいお祖父様が、それを面白そうに見ている。
『おい、いい加減に振り回すのを止めろ。ふん。ちびめ。お前がそんなに言うんなら、一緒に外に付いて行ってやろう』
アポカリストは、偉そうだ。だが、本当は、それは虚勢なのかもしれない。
多分、ひいお祖母様が二振りの剣を、面白そうに可愛がってくれ、色んな所に連れて行ってくれるだろう。
『主、伝説の勇者の名前がわかったぞ。ゴリアドスだ』
ようこそ、勇者ゴリアドスの剣アポカリスト、そして名無しの剣よ。
世界は、まだまだ面白い。
「というわけで、おやつにしない?」
「もう食べるの?ベルリーナ。早くないかしら?」
「でも、アメリア。おやつは人生の楽しみの1つだと思うの」
「ベルリーナ、剣は、おやつを食べれなくてよ」
「そ、そうなの?喋れるのに」
おやつを食べれる剣は、ちょっと嫌だな~。




