第一王子の侍従見習いは、走る
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第一王子の侍従見習いのネトラスの視点です。前回の続きと、なります。
第一王子侍従見習いネトラスside
僕は、第一王子ラインハルト殿下の侍従見習いネトラス、5歳。殿下の乳兄弟。姉のアンナは、殿下の侍女で、僕と一緒に殿下のお世話をしている。
小さい時から殿下と一緒に育ってるので、ラインハルト殿下を、ライ殿下と呼ぶのを許して貰っている(ただ単に、小さい時は、ラインハルト殿下とちゃんと呼ぶ事が出来なかっただけだけど)
ライ殿下と一緒に遊び、色んな事を学んで、ライ殿下のお世話も出きるようになった。
そんな殿下が、側近候補と婚約者候補を選ぶお茶会から、嫁を連れて帰ってきた。
「ネトラス、嫁が出来たぞ!ベルリーナ・イースタン公爵令嬢だ!」
その夜、何者かに襲われた殿下は、夜中に王城に連れて来られたイースタン嬢と一緒のベッドで一夜を明かし、僕に会った頃は上機嫌だった。
「婚約者だから、一緒のベッドにお泊まりは駄目だと言われていたが、お泊まりしたからには、もう、ベルリーナは事実上、私の嫁だな!」
嫁、嫁、嫁、嫁と、うるさい。
僕も殿下も、まだ5歳なんだぞ。結婚なんか出来るわけないじゃないか。
近衛兵のロバートが、この間、嫁を貰ったばかりで、すぐに自分の嫁自慢をするので、殿下は何となく羨ましかったのかも知れない。
そんなベルリーナ嬢が、殿下が書いたお手紙で、紙ひこうきなるものを作って、殿下と一緒に呪文を唱えた。そして、廊下に出ると
「さあ、ネトラス!紙ひこうきと一緒に走って魔術師団長の元へ!どっちが速いか競争よ!さあ、飛ばすよー!」
紙ひこうきを、すいっと飛ばした。
飛んだ…飛んだ…どんどん先へ飛んで行く…
「殿下の手紙~!」
紙ひこうきは、速い。でも、僕も負けていない。負けないからな。
「ネトラス、どうしたんだ?」
誰かが僕に声をかけた。
「ネトラス!廊下を走っては、いけません!」
今度は侍女長だ!でも、
「すいません、殿下のお使いなんです!」
僕は、走り続けた。殿下の手紙、殿下の手紙。
紙ひこうきは、僕の前、手の届かない所を飛び続ける。くっそー。負けないからな!
「何か変な物が飛んでるぞ!」
近衛兵の誰かが、剣で紙ひこうきを叩き切ろうとした。
「ダメ!それ、殿下のお手紙!」
手紙が切られる!…紙ひこうきは、すいっと剣を避け、更に彼の剣の追撃を避け…って、マジか~。彼の股の下を潜って、
「くそ~何だよ!あれ」
近衛兵をからかう様に飛び続け
そのまま、向こうから角を曲がってやって来た魔術師団長のおでこにぶち当たって、止まった。
「この魔力、ベルリーナだな。額にぶち当てて止めるとか、絶対、あいつだ!あいつは、また変なもの作って…」
「魔術師団長、それ、殿下からのお手紙です」
魔術師団長が紙ひこうきを開くと、団長と一緒に歩いていた魔道具製作部長が、横からそれを覗き込んで言った。
「読み終わったら、僕に、それ頂戴!何、それ。楽しいんだけど。絶対、使えるんだけど!」
「やれるか、阿呆。調査中の事件の重要参考資料だ。同じのが欲しかったら、うちの姪のベルリーナに言え。
ネトラス、ラインハルト殿下に伝言だ。手紙の件、至急調べてお知らせします。ありがとうございました、とな」
「ちょっと、アルジャーノン、姪っ子って、何処にいるんだよ?」
急いで何処かに行こうとする魔術師団長に、魔道具製作部長が追い縋った。
「姪は、ラインハルト殿下の所だ!ネトラスに聞けよ!」
殿下の元へと帰るのに、余分なやつが付いてきた。僕、苦手なんだよな、この人。
何か邪魔なやつがくっついてきたな~とネトラスは思っています。
魔道具製作部長は、流石にイースタン一族で賄う事が出来ませんでした。が、ベルリーナの叔父のアルジャーノンの学園時代の友人だったりします。