元魔王な令嬢は、初めて王城で朝ご飯をいただく
読みに来てくださって、ありがとうございます。
ラインハルト、怪我の巧妙で、念願の一緒にお泊まりが叶いました。
おはようございます。元魔王のベルリーナです。
いつの間にか、ベッドで、ラインハルト殿下の横に寝かされてました。同衾って、やつでしょうか?5歳だから、OKですよね。今だけの特権ってやつです。
眠ってる殿下は、昨日よりも顔色も良くなっており、寝息も穏やかです。スースーって、感じですね。
殿下、睫毛長いな~。唇もピンクでぷっくらしてて、鼻筋が通ってて、天使みたいです。大きくなったら、イケメンになること間違いなし。
でも、昨日の事が心配なので、ちょっとお熱を測った方が良いかもしれません。
そっと、そっとね。
横になったまま、ゆっくりと殿下のおでこと私のおでこをくっ付けてみました。
うん、熱もなさそう。
「ベルリーナ、何してるの?」
「ラインハルト殿下のお熱を測ってます。お熱、なさそうです」
「そうか」
目を開いた殿下の瞳は、綺麗な緑です。ユラユラ煌めく瞳は、魔力が多い証。
「ベルリーナの目は、綺麗な紫だな。ユラユラ揺らめいて、大きな宝石みたいだ。睫毛も長くて、唇はサクランボみたいにツヤツヤで。頬っぺたは…ちょっとぷくぷくかな」
殿下の将来は、女たらしとか言うやつかも知れません。
「ラインハルト殿下の目は、すごく綺麗な緑色です。きっと、イケメンとかいうやつになりますよ」
「じゃあ、ベルリーナは、絶世の美女とかいうやつになるな。今でも、むちゃくちゃ可愛いからな」
クスクス笑いながら、殿下は私の髪を撫でた。
「…ベルリーナ…ベラがボロボロになっちゃった」
「そうなんですね」
おでこを付けたまま、私達は話し続けた。
「せっかく、私とベルリーナで…2人で一緒に作ったのに」
「ベラは、頑張ったんですね。ラインハルト殿下が元気になったら、一緒にベラのお弔いをしましょう」
「弔い?」
「役目を終えて死んでしまったてるてるぼうずは、お墓に弔ってやって、その墓にお酒をかけるんです。ありがとうって、お礼を言いながら」
「ベラが、いなかったら、私は死んでいたかもしれないね、ベルリーナ」
「ラインハルト殿下は、ここに私と一緒にいますよ」
殿下は、ニッコリ笑って、また私の髪を撫でた。私も、殿下の髪を撫で返してあげる。
「生きてるって、スゴいね。夢の中でベルリーナと一緒にいて、目が覚めたら誰かが倒れてて、ベラがボロボロになってて…ひょっとしたら、ベルリーナもいなくなってるんじゃないかと、思ったんだ」
「私は、ここにいますよ?」
「昨日、ベルリーナと出会って話をして、ベラを作ったのも、楽しかったのも、全部…夢だったんじゃないかと思って」
殿下の眼から、涙が溢れた。
シーツで拭いちゃっても良いよね?
「ラインハルト殿下。今日も一緒に遊びましょうね」
クスクス笑って、私たちは、お互いに抱きついた。
「はい、そこまでです。先程から、主治医と魔術医がお待ちですので、起きて頂けますか?」
「「まだ、ベッドの中にいたい~。起きたくない~。お薬、やだ~。お布団出たくない~」」
昨日、私にお茶を入れてくれた侍女に布団を引っぺがされ、私達は抵抗むなしく、1人ずつお医者さんに診てもらった。
お医者さんは、昨日の夜に殿下の部屋にいたひょろ長いお爺さんで、魔術医は、なんと!私のお母様だった。
お医者さんは、殿下や私の目の下をピッて下に引っ張って見たり、私達に口をあーんと開けさせて舌を出させて見たり、私達の手首を握って時計とにらめっこしたりしていた。
それに対して魔術医であるお母様は、私達の手首を握って、深呼吸させただけ。これで、私達の魔力がキチンと整っているかが、わかるらしい。
へーほーふーん。毎朝、お母様が私にやってた事じゃないか。あれは、診察だったのか。知らなかったな~。
身支度を整えたら、朝ごはんがやって来た。
朝ごはん~朝ごはん~
初めての~王城での朝ごはん~
病人食と言うことで、消化に良い、蜂蜜入りパン粥と、ジャム入りヨーグルト。うんうん、流石、王城の料理人。中々のお味です。
そして、葉っぱ付きの丸ごとラディッシュ。
あー、これは、アレだ。アレだよな。アレ。
食後に、魔法薬剤師長の私のお祖父様がやって来て、私と殿下に皿に載せたラディッシュを各々に手渡した。
「魔法薬剤師長、このラディッシュには、手足が生えてる気がするのだが」
「はい、殿下。生えておりますな」
「なあ、魔法薬剤師長、ひょっとして、このラディッシュには顔が付いて「ラインハルト殿下、マジマジと見ちゃダメ!世の中には、見ない方が良いこともあるの!」」
私は、殿下に最後まで言いたい事を言わせなかった。不敬になろうがなかろうが、これは、深く考えない方が良い案件である。
「殿下、このラディッシュマンドラゴラは、食べると、気力・体力・魔力共にたちまち回復すると言う素晴らしい効用がありまして、我が魔法省では徹夜明けの職員に配っております。」
「魔法薬剤師長…何かの料理にならないのか?」
「殿下、今朝取れたてですし、『生のまま丸かじりが、1番効用が効く!』と、職員一同の人体実験結果です」
お祖父様が、カッと両目を見開きながらそう言って、ラディッシュマンドラゴラにかじりついた。
職員一同の人体実験結果って、全員、自分の身体で人体実験したんですね
「何せ、わしも今日は徹夜明けでして」
ゴリゴリボリボリと言う音を立て、お祖父様が、瞬く間にそれを食べきった。
こうなれば、観念するしかない!
殿下と私も、ラディッシュマンドラゴラの葉っぱをグイと掴み、その赤い実を丸かじりである。
「アンナも、食べておけ。どうせ、徹夜だったんだろう。すまなかったな」
侍女のアンナは、嫌そうにラディッシュマンドラゴラを受け取っていたが、一緒に食べ始めた。一蓮托生、こうなったら、皆、道連れよ!
「ところで、このラディッシュマンドラゴラとやらは、何処で作っているんだ?魔法薬剤師局の畑か?見学に行った時は、なかったと思うが」
ギクリ。冷や汗、たらり。
「何、そこにいる、うちの孫のベルリーナが公爵家の家庭菜園で作っております。まあ、殿下も一度、見学にお越し下さい」
殿下が、凄い形相で私に振り向いた。天使の顔が台無しである。続いて、殿下は侍女のアンナを見た。
「殿下、紳士は淑女の頭の天辺に拳骨は使いません」
「わかってるよ!しないってば!…それより、言質取ったよ。今度、ベルリーナの家に遊びに行くからな」
来ても、何にもないですよー。まあ、ラディッシュマンドラゴラとかが、走りまわってるかも知れませんが。
ボリボリモシャモシャ。好き嫌いはいけませんよねー。葉っぱも残さず食べましょう。モシャモシャ。
ラディッシュマンドラゴラは、朝1番で庭師のガイに捕獲され、無事、ラインハルトの元まで届けられました。
イースタン公爵家では、ラディッシュマンドラゴラを王城に出荷しているようです。公爵ったら、意外と商売上手。