元魔王な令嬢は、宝探しをする
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今日は、皆で宝探しです。
隣に、ライ殿下が眠っていた。殿下の寝顔を見るの、久しぶりです。ふふふ、可愛いわね~。
2人で一緒に入った寝袋の中は狭いので、あんまり身動きをすると、殿下を起こしてしまいそう。だから、動かずに、そーっとね。
殿下の手が伸び、私の顔に掛かっていた髪を退けてくれた。続いて、ほっぺたをグイッと摘ままれた。
「起きてたのなら、起こしてくれたら良かったのに」
ムニムニムニ。ほっぺたが~ほっぺたが~。
「いひゃいです~」
「ははは。ごめんごめん。私のも、引っ張る?」
せっかく殿下が、そう言ってくれたので、殿下のほっぺたを、摘まん……すりすりすり。
「ははは。くすぐったいな。引っ張らないの?ベルリーナ」
気持ちいいのよ~。すりすりすり。殿下も、私の頬をすりすりし始めた。すりすり合戦ね。
「さて、殿下。大変なお知らせがあります。私達、寝袋から出れません」
「ベル、それは、今日は寝坊しても良いと言う事か?」
「いえ、くすぐり合いっこしてたら、止めれなくなって、地獄を見ると言う事ですわ。それに、今日は、宝探しをせねば」
私達は、キョロキョロしてみたが、ガイと部長が見当たらない。イカロスだけが、すぐ側で眠っていた。
「壁かと思ったら、イカロスだったな」
イカロスは、私達を守るように、私達の寝袋を、自分の尻尾でグルッと囲んでくれていた。イカロスは、大きな欠伸をすると目を細く開けて、私達を見た。
「おはよう。主と、その亭主よ。何だ、まだその寝袋とやらに包まったままなのか?」
「おはよう、イカロス。実はな、私達は自力ではこの寝袋から出れないのだ」
ライ殿下の言葉に、イカロスはガハガハ大笑いした。
そんなに笑わなくても、いいじゃない。ぷんぷん。出れないものは、出れないのよ。
「おい!部長!主達が、寝袋から出れないと言っているぞ!出してやってくれ」
イカロスは大声でそう言うと、私達を囲んでいた自分の尻尾を退けた。洞窟の入り口の蔦の向こうから、部長が入ってきた。
蔦の向こうから、いい匂いが漂ってきて、私と殿下のお腹が鳴った。
朝ごはん~朝ごはん~。
「おはよう。殿下とベルリーナちゃん。今、寝袋から出してあげるね~。大人がいない時に、2人で勝手にうろうろしてたら危険だから、寝袋にロックを掛けてたんだよ」
部長は、そう言いながら私達の寝袋に指を触れると、その場所が光り、寝袋が左右にスッと開いた。殿下と私は起き上がり、いつもの様にお互いの頬にキスをする。
「おはよう、ベルリーナ」
「おはよう、ライ殿下」
「おはよう、ベルリーナちゃん」
部長が、私の方に自分の頬を向けた。
「僕に、おはようのキスがないよ。ベルリーナちゃん」
「それは、ダメだな。人の嫁にキスをせがむな」
部長の言葉に、殿下が答えた。私も、うんうんと、頷いておいた。
キスの代わりに、しゃがんでいた部長の頭をよしよしと、撫でておいた。
「「おはよう、部長」」
さあ、朝ごはんが待っている。
「「俺らも、連れてってくれ」」
あ、忘れられてるね。ドワーフさん達。
朝ごはんは、丸パンの横に切れ目を入れて、炙ったハムとチーズとピクルスを挟んだサンドイッチ。即席スープ。全て、ガイ作。
美味しい!ありがとう、ガイ。モグモグ。
ドワーフ達は、部長の腰に巻いてある鎖をお腹に巻かれていた。
「勝手に何処かに行こうとしたり、いらない事をしたりすると、鎖がギュッと絞まるからね。上半身と下半身で生き別れたくなかったら、大人しくしてね」
部長の作った魔道具の1つで、部長の意志で動くらしい。
「蛇踊りも出来るよ。みたい?」
見てみたい気がする。
でも、今は、宝探しが先決ね。
宝探しに至って、部長がネズミのオモチャを出してきた。
何?これ。
「宝探しの必需品。『探し物探知機』だよ」
「『探し物探知機』だと?」
殿下が、訝しげに言った。『宝物探知機』とか、『金属探知機』でもなく、『探し物探知機』。何故?
「『失せ物探知機』でも、いいな~。僕の研究室はね、よく物が何処かに行ってしまうんだよ。だから、その何処かに行ってしまった物を探す為の探知機」
部長は、まず、物をキチンと片付けた方が、いいと思う。
「こいつの頭に指をくっ付けて、探して欲しい物を思い浮かべる。『行け』と唱えると、こいつが探しに行く」
ネズミが走り出した。金ピカや光る宝石、剣、盾、王冠、用途不明の光る箱、他にも何だかわからないキラキラギラギラ光る物が、そこかしこに積み上げられて山となっていた。
『一緒にミスリル探しをするんだ』と、いつもの様にイカロスは、小さくなった。
「これ、全部片付けようと思ったら、一生掛かるんじゃない?大体、何処に片付けるの?」
「そうだな。我もそう思う。まあ、雑草は全部処理して貰ったからな。掃除は、終了と、しておこう」
小さくなったイカロスも、周りを見て、唖然としていた。
宝物ばかりだろうけど、物が多すぎるのだ。こんなにあると、ありがたみが薄れてきそう。
「あ、あそこにあったみたいだよ」
部長が指差した方向に、赤い光が点滅していた。あの山の、何処かにミスリルが、あるはず。
私達は、掘って掘って掘りまくった。光るネズミがいた。その下には、ミスリルのコップ?
「コップだね。うん、まあ、溶かせば使えるかも。はい、次、行こうか」
部長が、再び、ネズミに触れた。ネズミが走り出した。いや、宝物の山に潜り込んだ。また、皆で掘り出した。今度は、ミスリル製のカエルの置物だった。
「お前ら、ひょっとして、ミスリルを探しているのか?」
一緒に掘っていたドワーフ達が、尋ねた。誰も、今まで彼らに説明しなかったらしい。今まで、彼らは何を探していたんだろう。
「そうよ。ミスリルの延べ棒を溶かして、針金を作るの」
そして、魔石のビーズで手下を作るの。
ついでに、『探し物探知機』も作ろうかしら。私が作る時は、絶対に犬を作ろう。そして、見つけたら、口に咥えて持ってきて貰うわ。
この山の中から、探し物をするのは、もうウンザリだもの。
ミスリルの鎧、ミスリルの剣、ミスリル製の底に穴の空いたバケツ。
「そのバケツは、植木鉢じゃないのか?」
多分、殿下が正解ですわね。
ミスリルの鎧や剣、果てはコップまで、『どれもドワーフの作った芸術品なので、溶かさせるものか!』と、ジョンブルとイグナートが、息巻いた。
私達だって、溶かしたくないわよ。だから、延べ棒を探しているのだ。
山の様なミスリル製品を掘り出して、ようやく延べ棒が3つ見つかった。針金どころか、ミスリル製の手下が、作れるんじゃないかしら。作らないけど。5歳児の手には、余るからね。
「お昼ご飯を、食べ損ねたな」
ミスリル探しに夢中になって、頭の中が『ミスリル、ミスリル』と一杯になって、気がついたら、宝石類が邪魔物にしか見えないという、恐ろしい事態が起こっている事に気がついた。
何て事!!
「せっかく探し当てたんだから、ミスリル製品は、好きなだけ持って帰って良いぞ。コップとか、皿とか鎧も剣も、持っていても、我には使えぬからな」
皆で探しまくって掘り出したのが、とても楽しかったので、そのお礼らしい。
イカロスったら、太っ腹!
「部長、それも持って帰るの?」
「いや、僕じゃなくて、ドワーフ達がドンドン僕の袋に詰め込むんだ」
「どれも、ご先祖様の最高傑作だからな」
「と言うか、これ持って何処に帰る気なの?ジョンブル」
「お前の家だな。部長とやら。しばらく厄介になるぞ」
部長の家に居座る気、満々のドワーフ達でした。