元魔王な令嬢は、龍の家を訪問する
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いよいよ、イカロスの住み処に行ってきます!
イカロスの背に乗り、私とライ殿下、魔道具製作部長、ガイの一行は、イカロスの住まいに向かった。
「魔法薬材料採取係を引退して、辺境探険に行く事もないと思いやしたが、再び、こんなとんでもない所まで行くとは、思いやせんでした。
しかも、龍!龍に乗って飛ぶなんて。夢にも思いやせんでしたよ。ベルリーナお嬢様」
「ガイの昔の話は、あまり聞いたことがなかったんだけど、どうやって移動してたの?馬?」
「普段は馬や馬車ですが、砂漠地帯ではラクダにも乗りやしたね。一度、空を飛んだ事は、ありやすが、ククルカンでやしたね。
もっとも、あれは、飛んだと言うか、引っつかまれて、ぶら下げられただけでやしたけど」
ぶら下げられて、無事だったんだ。何してて、そうなったかの方が知りたいわよ。
「あんまり詳しく話やすと、お嬢様の教育に悪いと、お嬢様のお祖父様に怒られやすんで勘弁して下さいやし」
イカロスの住み処へは、夕方には着いてしまった。お昼休憩と、お茶の休憩までして、夕方に着くとは。
「一体、どれだけのスピード出したのよ、イカロス」
私は、イカロスに問いかけた。イカロスは、知らん顔だわね。すっとぼけているけど、ここ、何処よ。
「我が国に、龍の住み処があったとは、な」
ありませんからね、ライ殿下。そんな伝説、ひとっつも、ありませんから。
私と殿下が、キャッキャウフフして、龍の背に乗って初めての大冒険に、はしゃぎ過ぎて寝てしまった内に、大人達を騙くらかして誤魔化し、こっそりスピードを上げたに違いありません。
「いやー、まさか。龍って、凄いでやすね」
「僕も、まさか、ここ迄とは、恐れ入ったね~」
ガイも、部長もすっとぼけてるけど、実際は、景色が見えない程、速く飛んでるんじゃないかしら。
「心配するな、ベルリーナ。海は、越えておらん」
うちの大陸、結構、広いんですけど?既に、生えている草木が、うちの国のと違うんですけど?おまけに、ちょっと寒い。
「我の巣穴の中は、まあ、多少、散らかっているからな。晩飯は、ここで済ました方が良い。ここならば、我の気配がする故、いらぬ獣達は寄って来ないだろう。我は、ちょっと行って、自分の食事を済ませてこよう」
そう言って、イカロスは、後ろの崖に目をやった。どうやら、蔦で覆われた崖に入口が、あるらしい。
続いて、イカロスは、私達に崖の方に下がってバリアを張る様に言うと、飛び立ってしまった。
「ああ、出来るなら、この山の隅々まで分け入って、片っ端から調査したいでやす。あっしでも知らない植物が、多すぎやす。とりあえず、お湯を沸かしてスープの用意をしやすね」
「ガイ、水は僕が魔法で出そうか?」
「お願いしやす。この中で、こういう状況に慣れているのは、あっしだけなんで、出来るだけ皆さんの側から離れない方がいいでやすしね」
お城の料理人が用意してくれたサンドイッチとガイの作ったスープで晩ごはんを済ませる事になった。
私とライ殿下は、魔道具製作部の作った最新式魔法調理器(内蔵されている魔石の力で、箱の上に鍋やフライパンを置くと熱が伝わって料理が出来るらしい)でガイが料理するのを、じっと見ていた。
「これは、便利でやすね。嵩張りやせんし。魔法薬材料採取係に、早く装備させてやって欲しいでやす」
魔法薬材料採取の仕事は、色んな苦労があるんだって。言ってしまえば、世の中の冒険者の仕事の様なものだと、ガイは説明してくれた。
仕事中の出来事や詳しい話をするのは禁止されているが、当たり障りのない世間一般に知られている話をするのは、問題ないらしい。
スープの素と乾燥野菜を入れると、すぐにスープは出来上がった。
「採取の旅では、採取の最中に食料も調達するんでやすが、何も取れない時や緊急時の為に、こういう非常食を各自で持ち歩いてやす。殿下やお嬢様には、面白い経験になるかと思って用意してみやした。時間も、ありやせんしね」
確かに、面白い。沸騰したお湯の中にスープの素と乾燥野菜を入れると、すぐにブワッと広がってお湯の色が変わり、いい匂いのスープになるんだもの。
「まるで、魔法のようだな」
ライ殿下が、ビックリしてワクワクした顔でそう言って、ガイを見た。本当に楽しそうだ。
「料理は、魔法の様なものかもしれやせんね」
ガイは、私と殿下の方を見ながら、スープをお玉でぐるっとかき混ぜて、そう言った。
ガイがコップにスープを入れてくれている間に、部長は、魔道具製作部の最新グッズ、袋から出すと勝手に膨らむクッション(風魔法の応用です)を用意していた。汚れ防止、防水防火加工付きなんだって。
「こんな冒険、出来るとは思わなかったな」
ライ殿下が、ひっそり呟いた。確かに、イカロスがライ殿下を指名しなければ、王太子であるライ殿下は一生こんな体験は出来なかったかもしれない。
「しっかり楽しんでおこうな、ベル」
「はい、ライ殿下」
私達は、サンドイッチと暖かいスープを味わい、自由を噛み締めた。
もうすぐ夕闇が迫り、夜がやって来る。
「普通、ライ殿下とベルリーナの護衛と言ったら、魔術師団長の俺だろ?何で、俺が同行出来ないんだよ」
「まあ、未知の辺境地では、魔術師団長よりも、あっしの方が役に立ちやすからね。今回は、あっしの出番でやす。護衛も、バッチリ出来やすしね」
「便利な魔道具をいっぱい持ってる僕は、今回のメンバーには必須だよね」
「どれだけごねても、大人2人、子供2人しか我は乗せぬからな。主のベルリーナと主の亭主は、絶対に我が家に招くメンバーに決まっておる。後は、お主らで決めよ」
お掃除役として、ジェンナも、連れていきたかったけど、定員オーバーとしました。沢山人が乗ってる龍のイメージが、ちょっと湧かなかったです。




