表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

故郷を走る

 私は大型トラックの運転手だ。


 宮崎から仙台まで、長距離を毎日走る。


 しかし故郷を走ることはなかった。


 何もない、田舎町だからだ。





 出庫する時、運転席に紙が置いてあった。


 これから福岡へ荷物を降ろしに行く。


 その帰りの仕事が書いてある。


 積地は山口県、そして──




 降ろしは私の故郷だった。







 故郷に帰るのはたぶん7年振りだ。


 色々と景色が変わっていた。


「あっ……。川田さんの店、まだあるんや」

「わ……。斎藤さんのスーパー潰れてる」


 さまざまな感慨を抱きながら、昔125ccのバイクで走った道を、大型トラックで走る。

 ついつい走るスピードが低速になる。


「あの裏路地に入ったとこの書店によく通ってたな……おばちゃん元気やろか。さすがに大型トラックじゃ入られへんわ」

「昔はコンビニなんか一軒もなかったのに、今はセブンもローソンもあるんやなぁ」

「うわっ! あのガソリンスタンド、セブンになっとる! 態度悪かったからなぁ……。ざまぁ」


 ところどころは昔そのままだが、ところどころは変わっていた。


「葛尾のおばちゃん、元気かな?」

 家がなくなっていた。


「あの店はさすがにもうないよな?」

 リニューアルして綺麗になっていた。


 母は今もこの町でパートの仕事をしている。


 後の仕事が詰まっている。

 顔を出している暇はない。

 それでも電話してみようと思った。

 できるなら顔も見せておこうかと──


 電話帳に母の名前が見つからなかった。


「……ま、いっか」


 どうせ母はいつでも同じ話しかしない。

 従兄弟の兄が意地悪だの、あたしは世が世ならお姫様だの、他人を悪者にして、自分を立てる話ばっかり……。


 電話するのを諦めて、次の積地へとトラックを走らせた。


 懐かしい景色の中を、今の私が走る。


 懐かしいけれど、思い出すのは──


「あっ。ここ、愛犬のチビタと一緒に散歩したなぁ」

「あっ。ここ、愛猫のイチゴが迷子になってたとこだ。懐かしいなぁ」


 思い出すのはどうぶつとの思い出ばかり。


 人間との思い出は特にない。


 思えば何もいいことのない町だった。




 母がパートで勤めるお菓子工場の横を素通りした。


 また会えるよと心の中で呟きながら。


 もう一生会えないかもしれないと、そんな予感を抱きながら──





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初めの4行を読んで「あれ、エッセイだっけ?」と思いつつ確認したら純文学だった件。 会えるなら会ってた方がいいとは思うが、まあそこは個々人の考え方があるし、難しいのもあるよね。
惜別した故郷とはこういうものなんでしょうね……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ