~油問屋と南町奉行の間で一計~
転生×悪徳大名で頑張りました!!
ぜひ読んでいってください
42歳、OL、『心 儘夜』…。
特に悪くも良くも無く…
ただ 『暴れ太郎将軍』を見ることに喜びを見出していた日々は
唐突に 終わる
この歳にもなって 母の言いつけを守り
慣れない乗馬クラブに行った先で 落馬…。
思えば…儚い人生だった…。
――――
「……!!」
誰かが呼ぶ声が 聞こえる…。
これが九死に一生を得た という奴だろうか…?
「多門様!!」
『たもん……?』
聞きなれない言葉に目をこすり 重い瞼をこじ開けてみると
そこは…
「『心 入嘉栄多門』様!!」
さっき乗っていたポニーと違い 凛々しく大きな栗毛の馬と立派な鞍や鐙……
そして…この狩衣の質の高さは……!!
『私は誰…?』
そう口に出したつもりが 私の口は自然と動いていた
「某の名は何という…?
某を誰と心得ての狼藉か?」
「お、恐れ多くも20万石の藩主『心 入嘉栄多門』様でございますっ!!」
うーん……ひれ伏してる。
この高い位を表す狩衣としゃべり方から察するに ここは江戸時代の江戸…。
私は戦闘力(別名経済力) そこそこの大名といったところだろうか?
しかもおそらく 悪徳大名!!
空はどこまでも青く澄んでいて 麗らかで
樹木は色とりどりのつぼみを開かせては 若草色に色づき始め…。
遠くの山々が雄大に そびえたっていた……。
ikenai!!!
私の命の危機を前に 現実逃避してる場合じゃない!!
と。
とりあえず
眩暈がしたので 籠を素直に呼んでもらうことにする。
「まあ、いい…。
籠を呼べ…。」
「…はっ。」
程なくして なんとも立派な籠がやってきた。
うーん……
やっぱ 悪徳大名臭いなあ…この金回り。
そう思いつつも 意外と乗り心地のいい
籠に乗って しばし考え事をする。
ここで説明しなければならないのが さっきの眩暈
あれは 脳卒中や脳震盪ではない。
おそらく
多門さんのものと思われる記憶が 頭の中へぶちまけるよう
一気に 流れ込んできたのだ。
それらの記憶によると……
ここはやはり 江戸。
が、私の知っている江戸ではない。
少なくとも こんな妙ちくりんな名前の大名なんて聞いたこともないし。
というわけで あくまで可能性の段階だが……
異世界の江戸
これにはきちんとした 考察もある。
先ほど私が口にした言葉とは 程遠い悪辣な言葉
これが異世界転生ものでよく聞く スキルとかいう奴なら納得できる
というか もう命の危機だ
仮定『悪徳大名の心得』として 普通の言語や所作を
悪徳大名風の言語や所作に変えてくれるスキルだと 思っておこう。
問題は ここから。
この……
正直 見た目からして悪いことしてますぜ風な面持ちをした
若大名の醜男が私で 長いから『多門』さん
多門さんに幸いなことが唯一あるとすれば この人はまだ悪行に手を染めてはいない。
ん?
なんで 唯一かって?
今晩…正に染めるところだからさ!
HAHAHAHAHA!
乾いたアメリカンホームドラマのような笑いは さておいて
この窮地を どう乗り切るか…?
間の悪いことに 明日は上様……
徳川吉宗公が 九州から江戸に上る日。
そして 悪だくみをしようとしているのは油問屋と南町奉行…。
ご存じの方も多いかとは思うが 上様が大岡越前を南町奉行に抜擢したのは
この事件の後。
今夜!
tonight!!
私の第二の生は 燃え尽きようとしている!!!
とりあえず
見るからにご立派な武家屋敷についたところ ダメもとで籠から降りると私は言ってみた。
『今夜の会談キャンセルできないかな?』
「そこの…
それより 今宵の会席はわかっておろうな…?」
おわかりいただけただろうか……?
この言う事を聞いてくれない 口を…。
憎い!
あたい…この『悪徳大名の心得』が憎いよ!!
一方、側仕えの人は可哀そうに 何度も頷く。
「は、はい!!
それもう 滞りなく…」
見ればまだ 17位の将来有望そうな若者だ。
多分 こんな暴君に仕えていなければ
きっと幸せに暮らしていたに 違いない。
ここは是が非でも まず彼と私を幸せにしよう!!
そう心に誓って 私はうなずくのだった。
「ならば…よいわ。」
私が何をしたと思う 反面
私は今ははるか遠い 平凡・平和という名の理想の未来へ
強かに燃えていた…!!
―料亭ー
私は焦る思いを胸に 料亭へと足を進める。
私の作戦は こうだ。
会席には顔を出すだけ出して 帰る。
名付けて 『通りすがりですからー!!』戦法。
私が一番 奥の金や銀を使っていない分
いかにも高そうな お座敷に顔を出すと……
居るわ居るわ 悪そうな奴。
とりま
挨拶だけして さっさと帰るかあ……
「多門様…。
この度はお越しいただき 誠に…」
『あー…そういうのパス』
「油問屋よ、堅苦しいのは良い良い…
それよりも……」
お、ようやく思った通り
口が回ってくれたか。
いったん 席にも着いたし
西陣織のひじ掛けに ひじも置いた。
豪華絢爛な金と銀を使っていないにもかかわらず いやらしい雰囲気の部屋も見渡した!!
これでさっさと帰る 口実が……
「わかっております…。
これは多門様が お好きなものでございます…」
菓子折り…料亭……
嫌な予感しか しない!!
生唾を飲んで 私が菓子折りを開くと…
やっぱり 黄金輝く山吹色の菓子だったかああああああああ!!!
辞退したい
とにかく 辞退!!!
何か言い訳…言い訳。
あ。
「某と其方の仲だ…
気兼ねするで無いわ。」
「これは 異な事…」
「某の言う事が聞けぬと 申すか…?」
「も、申し訳ありません…」
油問屋さん 山吹色の菓子しまってくれたあああああ
首の皮 1枚いいいいい
とにかく 後は逃げるだけ…
「して…多門様
火付けをし 南の油問屋へ罪を擦り付け
剰え、南の油問屋の油を盗む画策は……」
shut……up…!!!!
南町奉行め…っ!
kill you…kill you…!!
どうしても
ずるずるにしたいつもり らしいな…!!
うーん……
ダース・ベイダーごっこしてる場合じゃなくて、何とか頓智でもいいから
ひらめかないかな…?
この見るからに頭の足りない二人を 満足させる方法…
…!!
「まあ 待て。
油問屋に南町奉行…
其方等にもっと いい儲け話がある。」
「……!!!
多門様、それは如何ような…」
「耳を貸せ…。」
二人が耳をそばだてたところで 本筋に入る。
「油問屋……『喜多川 歌麿』とかいう 浮世絵師…。
其方も聞いたことくらいは あろう?」
「はい…「婦女人相十品」「婦人相学十躰」の浮世絵師のこと ですね…。
……ですが手前どもとは とんと縁がございませんので…」
「奴に油壷の描いてある 美人画を書かせよ…
そしてその油壷を売りに出せば 江戸の油屋と言えば
お主のことを指すようになるだろうよ…」
「多門様…っ!!」
「おお、わかっておるわ…南町奉行。
其方はお勤めの年数に従い 褒章を上げる
『退職金』を制定したのち 南町奉行の職を辞すがよい…
何…大岡越前のやつを 後目に敷けば
他も 文句は言えまい…
其方は 退職金で遊び惚ける…
といった からくりよ…!!」
「多門様も……」
「お人が悪うございますな…!!」
『はーっはっはっはっはっ!!』
よかったあ…こいつらが馬鹿で。
まあ、この…
まさに悪そうな奴は 大体友達状態!!
は 流石にどうかと思うけど…。
さて、帰る前に。
「では…。
某から其方等に 祝い金だ…
受け取れ。」
2両ずつ…。
今回の会食のお金は こんなものかな?
『ありがとうございます…!!!
ありがとうございますっ!』
おお、這いつくばって取ってる内に…
「では、某は帰らせてもらう…」
退勤、帰宅!!!
―享保元年ー
めでたく 吉宗公の江戸へ上がるところも見れたし。
「平和……だのう?」
側仕えの青年『田宮野 桜丸』は
今日も朴訥とした顔立ちで 表情もあまり読めない。
が、そんな桜丸が笑って見せた
「何とは 申しませんが…
多門様にお仕えできたこと 心より嬉しく存じます!!」
「ふむ…そうか。」
あれから
油問屋は真っ当に儲かり、南町奉行も
今頃 伊勢あたりで療養中だという。
新しく抜擢された大岡越前は 噂通りの働き者だというし…
今回の件はこれで 1件落着。
しかし。
桜丸…笑うと存外 可愛いなあ…。
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ★~★★★★★で評価していただければ幸いです