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第53話 アイテム


 魔塔は高くどこまで続いているのかわからなかい。魔術師の研究室が何階層分も過ぎたあたりで、移動装置(エレベーター)が止まった。


「これより上の階層は決められた魔術師しか入ることのできない階層ですので、移動装置でのご案内はここまでです。皆さん、興味のある階層はありましたか?」


 生徒たちが顔を見合わせて、口々に声を上げる。

 それを魔術師はじっくりと聞き取り、それからコホンと一度だけ咳をして皆の視線を集中させると、口を開いた。


「魔塔は魔法の適正や本人の希望により、それぞれの研究室に入ることができます。もし気になるところがありましたら、卒業後はぜひ魔塔にいらしてくださいね。王立学園の生徒でしたら、皆さん歓迎してくれるでしょう」


 生徒たちが一斉に返事をする。


「それでは次は、お待ちかねの魔術石の研究所にご案内しますね」


 魔術師の案内で、リシェリアたちは移動装置(エレベーター)から出た。

 魔術石の研究所はこの階層にあるらしい。


 ルーカスは先頭の方に居て、その後ろにアリナがいる。リシェリアたちは最後尾を歩いていた。


 移動装置(エレベーター)に入っていた時から思っていたけれど、この階層は暗い。ほんのりと等間隔に明かりが灯っているものの、ぼんやりとした明かりだからか通路全体を照らしているわけではない。先頭にいる魔術師の姿を見失ったら、暗闇に迷い込んでしまいそうだ。


(一本道のようだから、大丈夫よね)


 置いて行かれないように集団について行っていると、ふと視線の先でアリナとルーカスが話してる姿が視界に入った。


(二人が話しているなんて、珍しいわ)


 しかもルーカスから声をかけたように見えた。

 ルーカスがアリナに興味を見せたことなんてあっただろうか。


 胸の辺りがモヤッとして足が止まりかけるが、置いて行かれないように歩いていく。

 すると、隣を歩いていたヴィクトルが話しかけてきた。


「リシェ。最近アリナさんと一緒じゃないようだけど、どうかしたの?」

「え?」


 最近アリナと会話ができていないことは気になっていた。昼休みの時にいつもの教室にこないから、リシェリアは一人で昼食を食べることが多くなった。


「なんでだろう。でも、アリナと顔を合わせると挨拶ぐらいはするわよ」

「挨拶をした時、なんかおかしくなかった?」

「おかしい?」


 リシェリアが声を掛けると、アリナは驚いた顔をした後に、すぐに返事を返してくれていた。

 特におかしなところはなかったとは思うけれど。


「それがどうかしたの?」

「……うーん。僕の気のせいだと思うけど、少し気になってることがあってさ」


 歯切れの悪いヴィクトルは、アリナに視線を向けている。


(ヴィクトルって、そんなにアリナに興味があったかしら?)

 

 同じクラスだから、会話をすることはあるのだろうか。――いや、アリナは攻略対象者とはできるだけ関わりたくないと言っていたから、違うような気がするけれど。


 視線を追うようにリシェリアもアリナを見る。アリナはもうルーカスと会話していなくて、それにホッとしていると、ふと視線を感じた。ミュリエルだ。なぜか険しい顔でこちらを見ている。


「……マナス嬢と、仲良くなったんじゃなかったっけ?」

「そ、それが芸術祭の時に、いろいろあって……」


 あの時にウィッグをとられて地毛を見られたことは、まだヴィクトルに話せていない。


(それにあの時は、隠れキャラに洗脳を受けていたからで……。いまは、大丈夫なのかしら?)


 隠れキャラの名前は、ダミアン・ホーリーで、養護教諭だったはずだ。

 アリナには保健室に近づかないでと言われていたので顔は確認できていないけれど、桃色の髪に赤い瞳をしていると聞いた。そして、彼は魔塔の魔術師でもあると。


「ねえ、ヴィクトルって、ダミアン先生のこと知ってる?」

「ダミアン先生? ……あー、養護教諭の? たしか、突然やめたんだよね?」

「え、そうなの?」

「うん。辞表だけおいていきなりいなくなったらしいよ。それも芸術祭のあとに」

「そ、そうだったんだ」

「あとこれは関係があるのかわからないけど、ケツァール先輩が保健室で暴れたんだって」

「えっ!?」


 ヴィクトル曰く、保健室は黒焦げになっていたそうだ。もともと問題行動ばかり起こしている生徒だから先生たちに目を付けられていたけれど、どれだけ問いつめられても保健室で暴れた理由は口にしなかったようだ。

 だから理由はわからないままだけれど、ケツァールが暴れるのはいまに始まったことではない。他の生徒たちはあまり気にしていなかった。魔法の腕で彼に勝てる者はいないから、口出しできないと言う方が正しいのだけれど。


「そうだ、リシェリア。思い出したんだけど、これ」


 ヴィクトルがポケットから何かを取り出す。

 それは深緑色の鳥の羽根だった。


「っ、それ!?」


 思わず勢いよくヴィクトルの腕を両手でつかむ。

 驚いたヴィクトルが慌てて羽根を落としそうになったのですぐに手を離したが、リシェリアは彼の持っている鳥の羽根に釘付けになっていた。


「アイテムだ……」

「アイテム?」

「うん。赤い羽根は攻撃魔法用だけど、緑の羽根にはいろいろ効果があってね……ハッ」


 興奮して、口早に語っていたリシェリアは慌てて口を噤む。


(思わずゲームの設定を話すところだったわ)


 一瞬で冷静になると、ヴィクトルの金色の瞳と目が合う。


「なんで、そんなに詳しいの?」

「そ、それは……。あ、アリナから聞いたのよ」


(ごめん、アリナ。勝手に名前を使って)


「……ふーん。そういえば、アリナさんってケツァール先輩と仲が良かったんだね。前に話しているの見かけたけど、どういう関係か知ってる?」

「え、それは知らない」


 素で出た言葉だったからか、ヴィクトルは訝しみながらもすぐに納得してくれた。

 ヴィクトルは懐からもう二枚の深緑色の羽根を取り出す。


(緑の羽根を三枚も)


 攻撃に特化した赤い羽根と違い、緑の羽根にはいろいろな効果がある。

 たとえば遠くを離れている相手と会話をするとか、ケツァールに居場所を伝えるとか。それから、魔法を跳ね返す力だとか。


 この鳥の羽根は、魔塔を攻略するのに欠かせないアイテムだ。


「ヴィクトル、この羽根どうしたの?」

「ケツァール先輩に貰ったんだ。魔塔に行くなら、必要だろうからってさ。最初にもらったのは一枚だけだったけど、昨日また僕のところにきて、二枚の羽根を置いて行ったんだよ。よくわからないけど、お守りになるから持っておけってさ」


 だから、とヴィクトルが一枚の羽根を渡してくる。


「一枚、リシェにあげるよ」

「いいの?」

「うん。魔塔で何があるのかはわからないけど、お守り代わりに」

「っ、ありがとう、ヴィクトル」


 この羽根があれば、魔塔で何か起こった時に防ぐことができる。持っているだけで少しは安心できるだろう。

 できればアリナに持っていてほしいけれど、声を掛けるタイミングはあるだろうか。


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