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第52話 案内


 魔塔の内部に入ると、黒いローブを着た魔術師がひとり待っていた。フードで顔が隠れていてよく見えないけれど、声からすると男性ようだった。


「これから先は、僕が案内をします」


 案内をしてくれる魔術師のあとについて行くと、大きな筒状のような空間が部屋の中央にあった。筒は遥か上まで続いているみたいで、先が見えない。

 首が痛くなるほど見上げていると、魔術師が説明してくれる。


「これは魔塔の内部を移動するための移動装置です。魔術石が組み込まれていて、魔法を使える人が乗れば感知して、目的の階層の数字のボタンを押せば、目的の階層まで移動してくれるんですよ」


(これはもしかして、エレベーター!?)


 思い出した。ゲームでもこの移動装置で魔塔の内部を移動したんだった。

 感激したリシェリアは、思わず目を輝かせながら足を踏み出す。


「装置には一度に三十人まで乗ることができます」


 そっと横眼で生徒の数を数えると、二十九人。

 そういえば、魔塔ツアーの募集人数も二十九人が上限だった。中途半端な数字だと思っていたのだ。


「ふーん。魔法ってすごいんだね」


 隣でヴィクトルが感心している。


 魔術師の案内で、順番に筒の中に入る。


「移動はゆっくりとなりますので、外の景色を眺めながら説明しますね」


 筒の中は、床以外がガラス張りになっていて、外がよく見渡せる。

 全員が乗ったのを確認すると、魔術師が中央にある装置に触れる。


 すると、ゆっくりと筒が上に持ち上がるようにして動き出した。


 一階層は何もない空間だった。

 だけど、二階層以降はその姿が一変する。


 二階層から四階層までは、学校のような空間だった。


「ここでは魔法適正のある子供たちが、魔法を学んでいます」


 魔塔で魔法を学んでいる者の多くは平民の子供たちだ。魔塔は身分に関係なく魔法に適性のある子供たちを集めていて、魔術師の卵として育てている。貴族であれば王立学園で魔法を学ぶことができるけれど、平民はそうはいかないから。


 ゲームのヒロインは、珍しい魔法が使えるから特別に学園に入学できた。王国としても貴重な魔法は保護しておきたいのと、魔塔に独占されるのを怖れていたから、だったはずだ。


(だけど、この子たちは……)


 リシェリアはゲームで真実を知っていた。だから子供たちを同情の視線で眺めてしまう。

 移動装置に乗っている王立学園の生徒たちに、魔塔の生徒たちが気づいて手を振ってくれたり、ちょっした魔法を披露してくれる。筒のなかで歓声が上がるが、リシェリアは素直に喜べなかった。

 きっとアリナもそうだろうと彼女の姿を探そうと視線を巡らせると、なぜかエメラルドの瞳と視線が交わった。すぐに逸らされたので、気のせいだったのかもしれない。


「リシェ、なんか顔色悪くない?」

「いや、なんでもないよ。……ただ、この子供たちにとって、魔塔の生活はどうなのかな、と思って」

「平民でも魔法を学べる機会があるのは、良いことなんじゃないかな」

「……そうだよね」

「なんか、今日のリシェ、いつも以上に変だよね」


 ヴィクトルが訝しみながらも心配そうに言ってくるが、リシェリアは微笑みを返すことしかできなかった。


「五階層から十階層目までは図書館の空間です。絵本や一般的な小説から、魔法を学ぶための専門書、それから外では読めない魔塔でのみ保存している蔵書など、多くの本があります」


 たくさんの本が並ぶその姿は圧巻だった。

 きっとウルミール王国だけではなく、他国の本なども集められているのだろう。

 少し読んでみたくなるけれど、ここはぐっと我慢だ。下手に魔術書に出くわしたら、大変な目にあうかもしれないし。


「一部の本は、専門の魔術師しか開くことのできない空間に保存されていますので、危険はほとんどありませんよ。――まあ、でも時たま」


 魔術師が少し楽しそうな声音を上げると同時に、生徒たちが「わあ」と歓声を上げた。

 人がいない通路の本棚から、ひとりでに出てきた本が宙に舞っている。そうかと思うとまた元の場所に戻ったり、別の本棚に収まったり……。

 本がひとりでに動いているのだ。


「本が意志を持って動いたりするので、注意が必要です」


 ふふっと笑いながら口にする魔術師の言葉を聞きながらも、生徒たちの視線はガラスの外に釘づけだった。


「十一階層は、商店になっています。我々魔術師も、生活をするためには生活必需品等が必要ですからね。まあ、中にはなんで魔法を使って生活しようとする魔術師もいますが、それにも限りがありますから」


 商店は一般的な商店街と大して変わらないように見えた。

 生徒たちもそこまで興味がないのか、次の階層は何だろうかと話している。


「さて、十二階層以上は、魔術師の個人の研究室が続きます。中には秘密主義の魔術師もいますので、カーテンで仕切られていて中が見えないところがあるかもしれませんが、ご容赦を」


 十二階層以上はそれまでの比ではないほど、驚きの連続だった。


 まるでジャングルのような木が生い茂っている階層あった。

 植物の研究をしている魔術師の研究室みたいだ。


 その次は動物たちがいた。動物の言語の研究をしている魔術師の研究室のようだけれど、多くの動物たちは檻に入っていて、すこし窮屈そうに見えた。


 暗い部屋があった。まるで夜空に浮かぶ星のようなものが散りばめられて、星の研究をしているそうだ。


 星の次は天気の研究をしている階層があった。大雨が降っていたかと思うと雷がゴロゴロと鳴りだして、落ちてきた稲妻の音に一部の生徒が悲鳴を上げる。そうかと思うといきなり空がからっとした快晴になり、筒の中までその暑さがしみ込んでくるかのように汗をかいた。


 その次は、空を飛んでいる人がいた。

 ついリシェリアがぼそりと、「箒でも飛べるのかしら」と呟くと、案内の魔術師が苦笑していた。


「自分が飛んだ方が早いのであまり見かけませんが、物に魔法を付与すれば可能だと思います。まあ、そっちの方が難しいんですけどね」

「そ、そうですよね」


 リシェリアはつい慌ててしまった。リシェリアは風の魔法で自分の身体を軽くして早く移動したり、高いところから降りるときに衝撃を和らげるために少し浮かしたりする程度しかできない。もっと魔力のある人なら、風魔法であんな風に飛んだりできるのだろう。


(羨ましい)


 そう思ったのが顔に出てしまったのか、魔術師に訊ねられる。


「もしかして、お嬢様は風魔法を使われるのですか?」

「は、はい。少しだけですけど」

「そうですか。それでしたら、魔力を強化(・・・・・)すれば、あんな風に飛べるようになるかもしれませんね」

「魔力の強化?」

「はい。魔塔には、それを学べる機関があるんですよ」


 思わず唾を飲み込んでしまう。

 これは喉から手が出るほど欲しくなったからとか、そういう感情とは真逆だった。

 リシェリアは緊張していた。


(まさか、この話を魔術師本人の口から聞けるとは)


 ゲームでも怖ろしかったシーンが脳裏に過ぎる。

 首を振っていると、魔術師は自己解釈したらしい。


「いまはその気はなくても魔法を使える者でしたら魔塔の扉はいつでも開かれていますので、もし興味がありましたらいつでもおいでください」

「……はい」


 緊張を悟られないように返事をすると、魔術師は再び案内に戻った。


「――さて、次の階層は――」



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