表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第5話 連絡先

 黒木みかさを探すも見失ってしまった唯音。どうしてもバンドに誘いたい唯音は、担任の教師から連絡先を貰うため、職員室へ出向く。

 テストのあと、僕は1人で考えこんだ。なぜ、みかささんが学校に来たのかについてだ。彼女は、話に聞く限りでは、中学に上がる前から不登校であり、中学には1度も来たことがないようだった。

 彼女がなぜ、中学3年のこの時期に登校したのか、その意味を考えた。普通に考えればテストを受けるためだろうが、僕はそうでは無いと思う。もしそれが理由であるならば、過去3年間に於いても、テストを受けに来ている筈だ。希望的観測かもしれないが、彼女は文化祭でバンド演奏をしたいのではないだろうか。

 不登校といえば、引きこもりがセットになっている印象がある。その裏付けとしてみかささんはかなり小柄だった。きっと日頃から体を動かす習慣がないのだろう。

 だとすれば、ヲタクの僕よりも狭い世界で生きている彼女が、バンドなんて組むことは難しかろう。もし彼女がテスト中に歌詞を書いた理由が、音楽好きだからであるならば、そして文化祭でバンド演奏が行われることを知っていたのならば、僕は彼女と仲良くできそうだ。

 そう思って僕はすぐさま学校中を探したが、彼女は見つからなかった。だから僕は教師に連絡先を聞くことにした。僕はその日の授業を終えてから、職員室に行った。

 3年2組の担任の二井先生。つまり僕とみかささんの担任な訳で、担任であるなら連絡先くらいは知ってるだろうという算段だ。

「こんこん。あ、校長少しいいですか?」

「口でこんこんなんてあざとかぁ。どがんしたね?」

「二井先生はいますか?」

「あぁ、あそこにおるよ。一枝いちえくん、2組の唯音くんだよ」

 どうでも良いが、二井一枝にいいちえという名前を聞くと、いつもこう思う。まるで外国人のような名前だ。

「あぁ唯音くん。なに用ね?」

「先生って、神は死んだとか言ってそうな名前ですよね」

「そがん下らんことば言いにわざわざ来たとね?」

 九州の方言は、少しキツイ。言い詰められたように感じるが、これは普通のやり取りだ。そんなことはどうでもいい。僕はそんなことを言いにきたわけではないのだ。

「黒木みかささんの連絡先を教えてほしくて……」

「みかさちゃんねぇ。知っとーけど個人情報やけん、教えれんばい。理由次第では教えてもよかばってん」

「みかささんと、文化祭でバンドやりたいなぁって思ってて。その、みかささん、バンド好きなんじゃないかって思ってるんです」

「なんでみかさちゃんがバンド好きと思ったと?」

 二井先生は僕に質問した。先生は何故か少し微笑んでいて、何かを期待しているような感じだった。先生は僕の母親がV系バンド狂いなのを知っているし、最近の僕が、Almeloの音楽ばかりを聴いているのも知っている。だからやっぱりみかささんは、文化祭でバンド演奏をして、思い出を作たいから登校してきたんじゃないかと思った。先生ならば、みかささんが登校してきた理由を本人に聞いていても、何ら不思議では無い。そして先生なら、不登校のみかささんが校内でバンドメンバーを見つけることがほとんど不可能であることも、分かっているだろう。

 だからこそ、僕がバンドメンバーに誘おうとしていることに、こんなにも嬉しそうな顔をしているのだろう。

 でも言っていいのだろうか。テスト用紙の裏面に歌詞を書いていたなんて、教師からしたら落書きじゃないか。みかささんは怒られはしないだろうか。

 僕が口ごもっていると、二井先生は優しく微笑んだ。

「唯音くんは優しか子ったいね。みかさちゃんが怒られんように黙っとっちゃろうが?」

「え、知ってるんですか。テスト用紙に私的なことを書いてたって」

「表面には名前すら書いとらんかったばってん、名前ば書いとらんとはみかさちゃんだけやけん分かっとっとよ」

「まぁ……普通に考えたらそうですよね。テストを回収してるし、なんならテスト中は教室にいるんだし知ってるに決まってます。でも……」

「でも万が一唯音くんのせいでみかさちゃんが先生に怒られて、学校に来るのが嫌になったら……って言いたかっちゃろ?」

 先生はそう言うと笑った。先生はなぜか楽しそうだった。そしてひとしきり笑ったあと、こう言った。

「みかさちゃんも文化祭でライブばしたがっとるばい。連絡先教えてあげるけん、話してみんね。みかさちゃんも喜ぶよ」

 二井一枝にいいちえ……唯音ら3年2組の担任。


 名前のモデル……フリードリヒ・ニーチェ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ