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最終話

 ついにバンメンが揃った僕たちは、音合わせのために全員で集まった。そのころには僕はすでにFコードをはじめ、課題曲に含まれるコードのすべてを自在に押さえられるようになっていた。

 音合わせを終えたとき、みかささんは突然こんなことを言いだした。

「そういやウチら、なんてバンド名なん?」

「そういや……リーダーの唯音は伝え忘れてただけで決めとったとか?」

 僕はてっきり、みかささんがリーダーだと思っていた。永に言われて初めて、僕は僕がこのバンドのリーダーであることを知った。

 正直、バンド名なんて決める心の余裕はなかった。だから僕はこういうしか無かった。

「名前はまだない」

「あれ、この前の国語のテストで見た気がしますその1節」

 ここで『吾輩は猫にある』の1節を言うというボケは、僕の中では結構センスがあると思った。だがツッコミを入れた泰造を含め、誰も笑ってはくれなかった。

「永はなんかアイディアなか?」

「さてね……泰造は?」

「えぇ……激ピュアとか? みかささん……その、どう思いますか……?」

「前のバンドに未練タラタラじゃんか。てかあんた実力はピカイチで尊敬するけど、なんでいつもそんなにビクビクしてる訳?」

 みかささんの言葉に、泰造は分かりやすくオドオドした。僕は、その気持ちがよく分かる。だってみかささんは、ちょっと気が強そうで怖い。きっとこの前僕にビクついていたのも、年上というだけで、いじめっ子の不良やみかささんと同類に見えてしまったのだろう。

「そういう生き物だと思ってください。すみません……」

 泰造がライブハウスに出入りしていた理由も、堂々とできる自分に生まれ変わりたかったからだと言っていたが、結果は不良と出くわして虐められるようになってしまったというから、可哀想だとは思う。 

 それはそうと、本題を進めなくてはならない。だから僕は、リーダーとして責任を持って、最もセンスが良い名前をつけてくれそうなみかささんに命名してもらうことにした。

「みさかさん決めてよ、僕も永も、泰造くんも、ロックをるバンドのセンスとか分かんないし」

「んじゃあ……IVクアトロとか……?」

「赤い彗星の偽名の1つかい?」

「それは知らんけど……意味は4。4人だし、いいんじゃないかなって」

「英語でかっこいいし採用!」

「ごめん唯音くん、これイタリア語」

「あっそんなんだ」

 さっきから、みかささんと話がうまく噛みあわない。そう思っていると永が呆れた顔をしていた。

「お前本当に英語ダメだな」

 泰造も、苦笑しながら畳みかけてきた。

「やっぱり松本さん英語苦手なんですね。この前課題曲のこと『アイム・ガナ』じゃなくて『アイ・ガナ』って言ってたの気のせいじゃなかったんだ」

「Be動詞とか……難しいんだよ! もーう!」

 そんなこんなで、特に名前にこだわりがない僕たちはIVクアトロと名乗ることにした。

 とにかく、その名前で僕たちはエントリーした。泰造が抜けてメンバーが不足したガチピュアは辞退し、1週間後に残っていた僕たちが自動的に文化祭で演奏する権利を得た。

 それを報告するとお母さんは喜んでくれた。涙を流すなんて、まだそんな歳でもないだろうに、涙腺がゆるゆる過ぎると思った。

 それから僕たちは吹奏楽部と合同練習を始めた。ロックテイストの曲とオーケストラが融和するのか不安だったが、重厚感と疾走感は存外に共存するらしかった。思えば、Almeloに多大なる影響を与えた日本音楽会の重鎮であり、V系の創始者であるEXEエグゼJapanは、激しく攻撃的なバンドサウンドと、美しく繊細な旋律をピアノやオーケストラで表現する唯一無二の楽曲を生みだしていた。

 活動初期のEXE Japanは批判が耐えず、関東三大ゴミバンドという不名誉極まりない烙印を押され、酷評されていた。輝く素質があるから、努力を放棄し運に見放された人々に貶され、中傷されるのだ。

 陰キャや不登校、非モテやアニヲタがカッコ付けることを、きっと誰かは罵るだろう。もしかしたら、イジメられるかもしれない。でもそれは、僕たちが輝ける主人公ヒーローだからだ。モブの声なんて知ったこっちゃないんだ。


 それからはあっという間だった。

 練習の日々、みかささんは持ち前の音楽のセンスで、バンドのサウンドを際立たせるオーケストラの楽譜を書きあげた。そして練習を主導し、青春を謳歌しているようだった。

 永は吹奏楽部のハーレムの中で、LINEを交換しまくっていた。きっと文化祭のあとブロックされるだろうが、今は浮かれさせておこうと思う。

 そうして迎えた文化祭当日。フロントマンとしてギターの音をかき鳴らしながら僕は一息に叫んだ。

「進路とか成績とか下らねぇことに頭抱えて眠れねぇ夜にオサラバしようぜぇぇ!」

 ギャラリーの歓声は最高潮を迎えた。

 僕はみかささんに目配せをした。

「それじゃあ皆さん聴いてください!」

 彼女の声を合図に、僕は全身全霊で叫んだ。

「I'm gonna be a hero!」

 EXE Japang……V系アーティストの先駆けであり、今や世界的ロックバンド。クラシックのような繊細な旋律と激しいロックやメタルを融合させ、その音楽性は多くのV系バンドに多大なる影響を与えた。


 モデル……X JAPAN。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)いやぁ~大好きなんですよね。こういう仲間集めに駆け抜けていく青春物語って。この作品と出会えた事に感謝をしたいと思います☆☆☆彡 [気になる点] ∀・)どこかの地方を舞台としているんだ…
[良い点]  結論から言わせて頂けば『カッコイイ』  でも、この作品の登場人物たちは最初からカッコイイ評価の人達ではありませんでした。  普通の高校生で、趣味と特技が重なり合って同じ方向を向いていた。…
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