第1話 幼い日のこと
幼少期、母親に抱えられ訪れた高校の文化祭。そこで近所に住む女子高生ヨッシーが、爆音を鳴らしライブをしている姿に衝撃を受ける。
ある日の記憶。僕が子供の頃の話をしようと思う。僕は親に抱えられて、見知らぬ場所へ来た。そこはまるで祭りのように多くの人がいた。みんな楽しそうで、美味しそうな匂いがして、心地よい気分だったのを覚えている。
「唯音、ステージまで行ってヨッシーお姉ちゃんば見に行くよ。文化祭のピークに校庭の中心でライブなんて、凄かね〜」
僕は無邪気に笑った。母が言ってることの意味は分からなかったけど、母が嬉しそうだったことや『ヨッシー』という名前に反応して僕は笑顔になった。
でも数分後、僕は泣き叫んでいた。
「第1高校のみなさん楽しんでますかぁ! 今日という日を一生忘れないように頭振って最後まで楽しもうぜ! そして、進路とか成績とか下らねぇことに頭抱えて眠れねぇ夜にオサラバしようぜぇぇ!」
大好きなヨッシーは派手なメイクに奇抜な衣装を身にまとい、艶めかしくも勢いのある大声で叫んだ。同時にギターをジャカジャカと鳴らし、そこにメンバーのドラムやヴォーカルの煽りも加わり、会場は大盛りあがりだった。
「おかあざぁ"ぁ"ぁ"ん! 怖いよぉ"ぉ"ぉ"!」
「大丈夫よ唯音〜ほらヨッシーが頭振ってギター弾いとるよ! かっこいよかね〜」
母はまるで騒音や熱気に恐怖する子どもの気持ちなど理解しようともせず、なおも会場に留まった。なす術もなく僕は、ただ母に言われるがままヨッシーがいるステージを見た。このカルト的な熱狂を生み出すステージに目を向けると、ヨッシーがギターを弾いていた。
この時僕は、ヨッシーをかっこいいと思った。
普段は、近所に住む明るくて面倒見が良い女子高生であるヨッシーが、長い髪をふり乱しながら赤いギターを弾きならす姿に、僕は目を奪われた。
大人になった今の僕なら、素足や谷間を晒して黄色い声で歌いながらギターを弾く姿の魅力を理解できる。でも当時の僕は、ただ単純にいつもより楽しそうにしてるヨッシーに見惚れていたのだ。
ファンサービスのウインクや投げキッスだってどうでもよかった。ただそうしてるヨッシーが凄く輝いて見えた。そうしていたら、熱気や騒音も受けいれられてきて、いつの間にかこのライブという空間を僕は楽しめるようになっていた。
ライブが終わってヨッシーは僕のところに駆けよってきて、いつもみたいに頬擦りをしてくれた。
「来てくれたの唯音〜ありがとね〜。お母さんも来てくれてありがとうございます!」
「ヨッシーの勇姿、しっかり唯音にも見せつけたわ!」
「唯音〜ウチかっこよかった〜?」
「かっこよかった!」
僕がそう言うとヨッシーは僕を撫でてこう言った。
「もっとデカいステージでライブをできるビッグアーティストになるけん。やけんそのとき、また見に来てね。約束だよ?」
これが幼い日の記憶。僕がバンドマンに憧れ、後にバンドを結成することになったキッカケだ。
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