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勇者5

当たり前だと言う顔をする少女に「そ、そうですか」と頷くしかなかった。彼女が見ている世界と自分が生きている世界が違うように感じた。

「うむ。今日は我に一撃入れてみろ」と少女は頷くと両手を握りしめて構えた。

「えっ、ちょ……」突然、彼女の雰囲気が変わった事に戸惑った。

少女が顔から表情を払いのけると勢いをかろうじて手で防御したがその手に激痛が走った。つけて顔面目掛けて蹴りを繰り出してきた。

「防御するとは成長しとおるの」

少女は先ほどとは全く違う笑顔を見せると、ユキノの脇腹を殴りつけた。これは防ぐことが出来ずにもろに食らい足元がふらついた。

「ぐふぅ」

更に、鳩尾を殴られて呼吸ができなくなった。何度も同じ場所を殴られ、口から血がでた。にやつく少女の顔がぼやけて見えた。

脇腹を抑えながら、足に力を入れて後方に大きくとんだ。すると、少女の攻撃がやんだ。

――ヤバい。考えろ。

朦朧とする意識の中で、ユキノは回避方法を必死に考えた。

「あっ」ユキノは赤くなる少女を思い出した。

少女が一気に近づいた瞬間、ユキノは彼女の耳元で「可愛いねぇ」とふいた。その瞬間彼女は耳まで赤くして動きを止めた。

そのチャンスをユキノは逃さなかった。

頭を彼女の方に倒し当てた。

「うむ。一撃は、一撃か」

少女は拳を降ろして、ユキノと距離を取った。

「うぅ……」

ユキノは必死に呼吸を整えようとしたが上手くいかず、今すぐにでもその場に倒れたかったが耐えて少女を見つめた。

「呼吸するのも苦しいのによくさっきのセリフを言ったな」

感心する少女を見ることしかできなかった。すると、遠くの方で聞き覚えのある声がした。

その声を聞いた少女は「おお、きたか」と手を招いた。

現れたのはミサキであった。彼女は目を細めて「またですか」と言いながらユキノを見た。

「ミサキ、コレをなおせ」

少女の言葉に「はい」とミサキは短く答えると、手をかざして詠唱を始めた。すると、次第に体の痛みが消えて動けるようになった。

詠唱が終了するとミサキは少女のもとに跪いた。

「アカ様、終了いたしました」

「アカ様……?」怪我が治ったユキノは立ち上がると目を大きくして少女とミサキを見た。

ミサキはユキノの手を強引に引っ張ると地面に膝をつけさせた。

「お前ごどときが勇者様のご尊名をおよびするなど万死に値する」ミサキは大きな声で怒鳴った。

――赤の勇者様……。

予想外すぎる少女に正体にユキノは唖然とした。

「アカ様もアカ様です」

眉を下げたミサキは瞳の位置に赤い石が入った勇者仮面を取り出して両手でアカに渡した。

アカはため息をついて勇者仮面に向かい、追いやるように手を振った。

「なりません」ミサキは大きく首を振った。「アカ様のご尊顔を下々が拝見するなどあってはならないことです」

「うーん……」

アカは眉を寄せながら、勇者仮面をつけた。そしてこれでいいかと言うように勇者仮面をつけた顔をミサキに見せた。

ミサキは笑顔になり頭を下げた。

「……赤の勇者様」

ユキノは彼女から地面に視線を移した。

見たこともない美しい少女が勇者村しかない田舎町にいた理由。

幼いのに大人びた雰囲気あり鬼のように強い理由。

上からな話し方や異様な圧の理由。

『赤の勇者様』の一言でユキノの中で、すべての事が繋がり納得がいった。

「赤の勇者様は……」ユキノは跪き地面を見たまま赤の勇者に話しかけた。「なぜ、私なんかにお声を掛けてくださったのですか?」

「そうです」ミサキは赤の勇者の足元に膝をつき、じっと彼女の顔を見た。「なぜ、村の人間なんかに声を掛けるのですか?」

「ミサキ」赤の勇者は口に人差し指を立てるとゆっくりとミサキを見た。

「申し訳ございません」

ミサキは青い顔をして頭を下げた。

彼女らの関係を見てユキノは不思議な気持ちになった。『勇者』とは敬うべき存在であるから彼女らの関係が正しい。

――あのカナタが『勇者』跪くか?

気づくと、ミサキの横いた赤の勇者がいなくなっていた。慌てて周囲を確認しようとした瞬間、頬に衝撃を感じそのまま地面に顔を擦り付けた。

「声か掛けた理由か」蹴った足を降ろしながら、赤の勇者はニヤリと笑った。「面白いからに決まっておろう」

赤の勇者は足をひくと、拳を握りしめてユキノに向け構えた。

「回復しただろ。立て」

ニヤニヤと笑う赤の勇者に見下ろされユキノ唾を飲み込んだ。深呼吸をすると、地面の砂を握りしめて立ち上がった。するとアカは嬉しそうに笑った。その笑顔は以前見た年齢相応のモノではなくもっと邪悪なものであった。

横目でミサキを見ると、彼女は跪いたまま顔を上げ赤の勇者を見ていた。

「あはは」赤の勇者を笑いながら、地面を蹴りユキノに突っ込んできた。

ユキノはすぐに両手で腹を防御すると「阿呆か」と赤の勇者は言いながら飛び上がった。

「……」

空中にいる赤の勇者をユキノは目を細め見ると、彼女の身体に狙いを定めた。身体をひねり、赤の勇者の蹴りを避けると彼女の腹に向けて拳を放った。

「ほう」赤の勇者はニヤリと笑うとユキノの拳を掴んだ。

「え……?」驚いて動けずにいると、拳を持つ   赤の勇者の手に力がこもった。「いたっ」

赤の勇者は持っているユキノの拳を軸に体を回転させると、頭めがけて足が飛んできた。

「うぁ」

赤の勇者の動きは見えたがよけきれずに、彼女の足が側頭部にヒットした。激痛が走ったが倒れないように堪えた。

赤の勇者は回転しながら、ユキノの背後に着した。

背後から攻撃が来る事を想定できたが、側頭部に受けた衝撃で身体を動かすことが出来なかった。

背中に何発もの拳をもらった。

「うぇ……」痛みで呼吸がしづらくなった。

ユキノは重力に逆らうのをあきらめて、その場に倒れると横に回転して赤の勇者の攻撃から逃げた。

赤の勇者は「ふーん」と言いながら追ってきた。彼女の拳が降ってきたので再度回転してよけた。しかし、よけきれず何発も拳が腕にあたった。

「あぁぁ」腕は鈍い音がして、耐えられないほどの痛みが襲った。

「もう、それはつかぬぞ」

見下ろす赤の勇者は楽しそうに言った。

――殺される。

ユキノは普段ではありえない方向に曲がった腕を抑えながら立ち上がった。腕は少しでも動かすと痛みが全身に走った。

「立ったか」赤の勇者が拳を握り構えた。

ユキノは荒い呼吸を無理やり整えて赤の勇者を見つめた。全身が痛すぎてだんだん麻痺してきた。小さく息を吐くと地面を蹴り、赤の勇者に向かった。

何してもやられるならとヤケクソになっていた。

彼女は身長が低いため拳を当てるよりも蹴りの方が、効率が良いと判断し彼女の腹部に足を向かわせたが腕で難なく止められた。

すぐに足を戻すと後方にとんだ。すると腹の前を赤の勇者の拳が通った。間一髪で彼女の攻撃を避けることに成功した。

「おお、良い判断だ」

赤の勇者は楽しそうに笑っているがユキノは限界であった。足がふらつき、立っていることが辛い。

「そろそろか」赤の勇者は頷くと、ミサキの方みた。

「はい」

ミサキは小さく頷くユキノに手を翳し詠唱を始めた。すると、体の痛みがなくなり変な方向を向いていた腕ももとに戻った。

「ミサキ、それをずっと続けろ」

ミサキは赤の勇者の言葉を聞いて顔を青くしたが「はい」と小さく返事をした。

それを境に、赤の勇者から攻撃を食らっても一切痛みがなかった。

「どうだ?」楽しそうに赤の勇者が拳を鳩尾に当ててきたが何も感じない。

赤の勇者が攻撃をして動きが止まった瞬間を狙い、上から彼女の頭を殴りつけた。見事に当たり、赤の勇者は頭を押さえて後方にとんだ。

彼女を殴った手が真っ赤になったがすぐにもとに戻り、痛みどころか彼女に触れた感触もなかった。

地面を蹴り赤の勇者に向かっていったはずであったに、気づくと地面に倒れていた。

身体に痛みがなく、何が起こったのか分からない。すぐに起きた次の瞬間、地面に顔をつけていた。

「アカ様」

ミサキの苦しげな声が聞こえた。

「もう限界か」アカのため息が聞こえた。

その瞬間、一気に体が重くなった。痛みは一切ないが疲労感で身体が動かない。

「ミサキの魔力切れだ」赤の勇者が、顔を覗き込みそういった。「まぁ、以前より記録が伸びたからいいか」

そう言うと赤の勇者は笑いながらその場を去っていった。

目の前にあった、夜空には多くの星が光り輝いていた。

「夜になっていたんだ」

戦うことに夢中で、周囲の状況を全く見ていなかった。

しばらくしてミサキの顔が視界に入った。ミサキは隣にゴロリと転がった。

「お疲れ様」いつもの威圧的な彼女が優しい口調で話してきたことに驚いた。

「え……?」

「勇者のパートナーでない貴女がボコられているのをみて同情したわ」

「……」いつもとは違う彼女態度に戸惑いを感じた。

横目でミサキを見ると、彼女は眉を下げて空を見ていた。ユキノは小さく息を吐くと同じように空をみた。

空では相変わらず、多くの星が光っていた。

しばらく沈黙が続いた。それが気まずくて話題を探したが思いつかず口を開けなかった。

「貴女は強いのね」沈黙も破ったのはミサキであった。「アカ様が飽きるまで付き合えるなんてすごいわ」

「……」ユキノは少し考えてから口を開いた。「ミサキ様の力があったからです」

「私の回復魔法があるからアカ様は容赦なく貴女をボコったのよ」ミサキは呆れたような口調で話した。「よく立ち上がったわね」

「強くなりたいのです」はっきりと言った。

ミサキは驚いてユキノの顔をじっと見た。

「勇者のパートナーでもないのだから、危険な目に合わなくても村で普通に生活できるでしょ。」ミサキは変人を見るような顔していた。「弟が勇者のパートナーなら経済的に困ることはないじゃない」

「そうですね」

彼女が言っている意味は分かる。勇者と共に戦う以外の道を与えられなかったミサキにとってユキノの行動は異常に映っているのだろう。

「ミサキ様は勇者のパートナーなりた……」

そこまで言ってユキノは言葉を止めた。

聞いてどうにかなるものではない。

「……あはは」ミサキは少し考えたあと乾いた笑いを浮かべた。「勇者のパートナーってね。どこに行っても好待遇なのよ。すべての物が無償で手に入るわ」

ユキノは彼女のセリフに小さく頷いた。

「アカ様の指導を受けたら、強くなれるわよ」

そういう言うミサキにユキノは好感を持った。今までまともに話をしたことがなかったが、周囲の空気を読むことのできる賢い人間のだろう。触れられたくない部分を上手に避けた場の雰囲気を壊さない。

「ミサキ様は、お師匠様がいらっしゃいますからこういったご指導にはなれていらっしゃいますよね」

ユキノの言葉にミサキは顎に手をあて少し考えが後眉を寄せた。

「確かに、私の師の指導も厳しかったけど……」ミサキは見上げた。それは空よりずっと遠くを見ている表情であった。「アカ様の指導を見たらぬるいわ」

ミサキはアカからの指導を思い出しているようで顔を青白くなった。

「アカ様とはお会いして一週間……」彼女は言葉を一度止めると間を置き「地獄よ」と強く主張してきた。

「今回、貴女にかけた回復魔法だけど、回復魔法だからね。あんな風にずっとかけ続けて無敵する魔法じゃないの」ミサキは興奮して起き上がると、ユキノの顔を指さした。「しかも貴女移動するから調整しないといけないし」

「あ、戦闘中だったもので……」ミサキの圧に押されてユキノの声が小さくなった。

「その回復魔法を無敵魔法にしながら、自衛しろっていうのよ。あの鬼勇者はさぁ」

興奮したミサキは鼻息を荒くしながらユキノに近づいてきた。普段の優雅で余裕な彼女からは想像できない姿だった。

ユキノが呆気にとられてポカンとした顔でミサキを見ていると「なによ」と目を細めた。

「あ、いえ……」ユキノは両手を前に出して、ミサキがこれ以上近づいて来ないように防御しながら顔をそらした。

「言いたいことあれば言いなさいよ」片手で顎を無理やり掴まれると、顔を近づけて目線を合わされた。


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