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勇者3

「勇者の印か。そこに魔王を封印すんだろ」

「うん、年々広がり三十年経つと死に至らしいよ。それを防ぐにはここに魔王を封印して術をかける。すると痣が消えると聞いた」

カナタの顔から笑顔が消えた。

「その術を掛けるの勇者のパートナーだ」

――だから、魔力の波長があう勇者とパートナーになる。

「これがあると勇者村に高値が売れるらしいよ」

アオは鼻で笑ったが空気が冷たかった。それをなんとかしようとカナタは口を開いた。

「で、でも同じ勇者仲間いるんだろ」

「仲間ねぇ」そう言うアオが怖かった。誰も信じていない目をして勇者たちが住む建物を見上げた。「魔王は一体しかいないだよ。その魔王を封印すれば次の魔王は五十年くらい現れない。言っている意味わかる?」

カナタは小さく頷いた。

綺麗な顔を歪めて建物を睨みつけるアオから彼が今まで勇者村でどんな生活をしていたのか想像できた。

自分といる時はアオを笑顔にしたいと思った。

「あ、魔力」

「へ?」突然のカナタの言葉にアオは目を大きくした。

「アオは見えないだよな」

「そうだけど……」

戸惑うアオからは張り詰めた空気は消えてカナタは安堵した。

「できるか、わかんねぇーけど」

そう言って、その場にしゃがむと地面に向かって手をかざした。アオは興味深そうにじっとそれを見ている。

アオが興味を持ってくれて嬉しかった。

気合いを入れて、手に魔力を集中させ魔力の塊を作った。

首を傾げるアオの様子からそれがまだ見えていないこと知ると魔力の濃度を上げた。

「これが魔力……?」アオは地面にある塊を興味深そうに見た。「真っ黒だ」

「うん」

カナタは深呼吸をすると、更に集中力を高め魔力の塊が動くイメージを浮かべた。

塊が左右に揺れだすと二足が生えて歩きだした。

「おぉ」と声を上げて目を輝かせて笑っているのをアオの顔を見るとカナタ嬉しくなった。

――勇者も人間だよな。

人形の足がぐにゃりと変な方向に曲がったのでカナタは慌てて人形に集中した。

「カナタ、無理しなくていいよ」

心配そうな顔をするアオ向かって微笑むと、人形に頭を付けた。更に髪をはやした。

「うぁ、なにこれ。カナタにそっくりじゃん」

アオが噴き出すように笑った。

「うん。アオが寂しくねぇーようにな」

笑いながら、カナタは人形から意識を切った。その途端、人形はパタリと倒れた。しばらくしてのそのそと動き出した。

「おお」アオは人形を自分の手の上に乗せた。「これは君から離れても動いているの?」

「多分」

魔力人形はアオに課された石の修業の副産物だ。

最初は石を魔力で囲うのは起きている時だけだったがそのうち『寝ていてもやれ』と言われた。そのうち魔力を切り離す事ができるようになった。

「球体ではよくやっていたんだけど、人形は初めてなんだよな。うまくいって良かった」

「ありがとう」

アオは嬉しそうに手の上に乗るとクルクルと踊る魔力人形を眺めていた。


森の木々が騒ぎ始めた。カナタはアオに作った魔力人形を思い出して濃度上げながら手を作った。

作った手はドスンと音を立てて、地面に落ちた。落ちた手は指を足のように地面につけると自由に動きだした。

「意識切るとそうなるよな」

カナタは手を拾うと拘束された事を嫌がるように暴れた。

「あーー、言うこと聞けよ」

カナタはイライラして、腕に魔力を叩きこむと手は静かになった。

「いいか」カナタは真剣な顔をして腕に話しかけた。「俺の二の腕にくっつんくんだ」

手はカナタの言葉を無視するように、動かずダラリとした。

「おい」

カナタは雷のように鋭い魔力を腕に浴びせると、ソレは慌てて二の腕くっついた。そしてソレは二の腕と同じ色に変化した。

「う?」カナタは目を大きくして腕を見た。「お前、そんなこともできるのかすげーじゃん」

褒めると、手は嬉しそうに左右に揺れた。

うかつにも可愛いと思ってしまった。

カナタは何度か頷くと右手で魔力を集めた。

「おぉ」

左腕があっても通常通り魔力があるが集まり右手に球体ができた。

「常に左腕に魔力を使わないからか」

カナタは自分の意思とは関係なく指を動かす左腕を見た。

アオに渡した魔力人形を思い出した。

「アレまだ動いてんのかな」

小さく息を吐いた。

アオを思い出すたびに胸が針に刺されたように痛くてたまらなかった。

次の夜。

黒いローブを羽織り、ボタンを付けようとしたが左手が手伝いを拒否した。

「そうかよ」

 カナタはローブを着るのを諦め窓から外へ出た。

月明りがあったが、木々が茂った森は真っ暗であるため視界に頼るのをやめ魔力探知を行った。まずは、森の入り口にいるウサギの形をした魔物を相手にすることにした。

「ちゃんと働いてくれよ」左腕に話しかけた。左腕は相変わらず指を自由動かしていた。

カナタは目を細めると「消すか」とつぶやくと左腕は拳を握りしめて少し腕を曲げやる気のあるポーズを見せた。

カナタはニヤリと笑い周囲を探った。

小さな魔力の塊をとばし、周りにある石や木の中に叩き込んでいった。

「よし」

魔物と無機物の場所が明確になると手に力を入れた。

ウサギの魔物が近づいてくるのを感じ、すぐに右手に魔力の塊を作った。素早くウサギに近づくと上から核に向かって魔力を叩き込んだ。すると、ドサリとウサギが倒れる音がした。

「いけるな」

カナタは、魔物に向かって正確に塊を叩き込みながら森の奥に進んだ。

「きたか」

大きなうなり声と共に、強い魔力が近づいてきた。

カナタはその場に留まり、相手を待った。

左側から魔物が近づいてきた。すぐに左手で魔力の塊を作ろうとしたができなかった。

「あ、そうだった」

魔物が左側から真後ろに移動した。

「でかいなクマ系か? うわ……」

大きな図体が飛び掛かってきた。その速さに身体がついて行かず避けることができなかった。

――ヤバい。

その時、生暖かいモノが顔に掛かった。

「え……」左手がクマの腹を突き破り、中から青く輝くモノを抜き出した。「え、なに?」

青い石はすぐ溶けて、手からこぼれ落ちると地面に吸い込まれるようになくなった。

「……」

呆然としていると、クマはカナタの真横にバタリと倒れた。左手が突き破った所からは血がどくどくと流れている。

「よくやった」

ポロリとカナタの口から言葉がこぼれ落ちると血にまみれになった左手はとくげにガッズポーズを取っていた。

――青い石が核なんだろうな。

 その後、左手は疲れたように動かなくなった。カナタは周りにいたオオカミや大型のトリの形をした魔物を倒し回った。その後病室に戻った。

それを毎日行っていたが左手が戦いに参戦したのは最初の一回であった。

ある日、病室に来たユキノに「深夜抜け出しているんしょ」と言われた。

「いや、身体なまるし」

「手がなくなったんよ。少し大人しくしてなよ」

腕を組み真っ赤な顔をしたユキノに見下ろされた。カナタはベッドの上でへらへらとした笑いを浮かべていた。

「そういう訳には、行かねぇよ」

カナタは暴れる左手を布団の中で押さえつけながらユキノの顔を見た。「アオに捨てられても俺はアオのパートナーだ。アイツを追いかける」

「はぁ?」ユキノは目を大きくした。「そんなん、青の勇者様がいらないとおっしゃるならいいじゃないん。一緒に暮らそうよ」

「やだ」

はっきり大きな声で否定した。

勇者のパートナーをやめる選択肢は初めからなかった。彼の捨てられた瞬間、死を選択しようとしたが彼の事を思い出すたびに一緒に魔王を倒したいと言う気持ちあった。

「青の勇者様はカナタのことをいらないとおっしゃられたんよ」

「知っている」

大きな声を出すとユキノの言葉は止まった。

アオのつけた勇者仮面の青い石が冷たく光っていたのをよく覚えている。

けど……。

 カナタは歯を食いしばり、床を見た。

ユキノは悲しい顔をして「知らん」と言うと病室を出て行ってしまった。


病院を出たユキノは後悔しながら真っ赤になって沈む太陽を見た。ゆっくりと暗くなっていくその光景はまるで自分の心の中を表現しているようであった。

何度もため息がでた。

「あら、ユキノじゃない」

甲高い嫌味な声が真後ろでした。

聞き覚えの声で相手が誰だがすぐに分かった。

聞こえないふりをしてその場を立ち去りたかったが、それが一番面倒なことになると知っていたため仕方なく、後ろを向いた。


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