ファルマンと女帝
「そろそろそなたの子を見せよ」
「嫌です」
「自慢の子なのだろう。なにを恥ずかしがる」
「女帝陛下におかれましては、もうちょっと落ち着きを持たれてはいかがでしょう」
「どういう意味だ」
ファルマンは自らの仕える女帝にはっきり言った。
「女帝陛下がそんななので、うちの子の教育に悪いです」
「だから会わせたくないと?よく言う。単に私のお気に入りになってちょくちょく呼び出されると嫌だからだろう」
「娘には真っ直ぐ育ってもらいたいので」
ファルマンは悪びれる様子もない。女帝はそんなファルマンににんまりと笑った。
「お主にそこまで愛されるとは、その娘はますます気になるのぅ?」
「女帝陛下は私を困らせて楽しいですか?」
「楽しい」
ファルマンはため息。
「次の貴族会議の際、連れてきます。ただし、変なことを吹き込まないように」
「お?フリか?」
「女帝陛下、うちの子に何かしたら許しませんからね」
「なんじゃあつまらないのぅ」
「ちなみに次の貴族会議、まだまだ先なのでそれまでは大人しくしていてくださいよ」
女帝はにっこりと笑った。
「会わせてくれるのなら良い。そうじゃ、その時までに娘の魔力を発現させておけ。魔法の授業をしてやろう」
「魔力の目覚めはもう済んでます」
「え」
「可愛がっていた猫達のピンチで。猫達は無事です」
女帝はますます笑みを深める。
「それは良い。動物を大切にするのは良い心がけだ。魔力の発現も、良い。うむうむ、ますます楽しみだ」
「ちなみに魔法の授業は師匠に頼むので結構です」
「なんじゃあ、それじゃあ私の出番がないのぅ…私達の師匠の手にかかると、どんな凡人でも秀才になるからのぅ…」
「娘はおそらくめちゃくちゃ優秀になりますね」
「それはさすがに親バカじゃあ!」
ケタケタと笑った女帝だが、ファルマンは割と本気である。とはいえ女帝の様子に腹をたてることはない。ファルマンは女帝とは、魔法に関しては時期の近い兄弟子だから師匠関連で付き合いはまあ長い。ファルマンにとって女帝は、いつまでも変わらない可愛い妹弟子なのだ。
「まあ、ニノンに会うのは女帝陛下より師匠が先になりますね」
「師匠には逆らえん。仕方ないのぅ」
つまらなそうに唇を尖らせる女帝だが、また次の瞬間にはにっこりと笑った。
「まあ、楽しみにしておる!またの!」
「失礼致します」
ファルマンは謁見室を出て、用事も全部済んだので屋敷に帰る。途中、ニノンにお土産として女帝陛下御用達のお店のケーキを買うのも忘れなかった。