女帝陛下と聖王猊下の労り
「神様は他にも何か仰られていたか?」
「〝父〟は、人間を心底愛していらっしゃると仰られていました。魂を分け与えた神様達よりも、人間の方が可愛いらしいと」
「…ふむ」
その言葉に女帝と聖王は少し複雑そうな表情になる。言葉選びに、なんとなく神が〝父〟から気に入られている人間に対して良くない感情があるように思えたからだ。
「…それで、神様は何故ニノンを呼び出したのじゃ?」
「聖域にある泉の奥深くに潜り、無意識の自分と対話させるためです」
「無意識の自分?」
「はい。自分の無意識の領域を司る、もう一人の自分です」
「なるほど、聖域の泉にそんな力が…」
女帝と聖王は顔を見合わせる。
「それで、対話してみてどうだった?」
「無意識の自分は、私自身が気付いていない深い傷を負っていました。そして私自身を許さず、嫌い憎んで苦しんでいました」
「…そうか。大変じゃったのぅ」
女帝と聖王がニノンを労わる。
「無意識の自分は、私に過去を思い出させてわざと傷つけてきました。そして激しく激昂して私を罵りました。でもそうすると、不思議と私の心が軽くなったのです。ああ、ここまで重い荷物を私は抱えていたのだと。無意識の自分に押し付けていたのだとやっと自覚しました」
「そうかそうか。辛かったのう」
「そして、自分を許して愛すると誓うと無意識の自分は段々と穏やかになって行きました。そして無意識の中に溶けました」
「よしよし、よく頑張ったのじゃ」
「そうやって神様の試練を乗り越えたのじゃな、偉いのじゃ」
女帝も聖王も、うんうん頷いてニノンを褒めた。
「他にも何か目新しい情報はあるかの?」
「神様のホワイトドラゴン様のお名前とかなら…」
「なに?」
「ぜひ聞かせておくれ」
「神様はクリニョタン様。ホワイトドラゴン様はブロン様とおっしゃいます」
聖王と女帝は神とホワイトドラゴンの名前を聞いて嬉しそうににんまり笑った。
「良いことを聞いた。さすがはニノンじゃ」
「後世に伝えていかねばな」
残す情報、隠す情報。情報を公開するならその手段。ニノンからもらった情報全てに対して様々なことを考えてまとめなくてはいけないが、得られた情報はかなり大きい。女帝と聖王はニノンに心底感謝した。




