妖精王に取られたくはないらしい
「それでな、クリニョタン」
「なんだよ、サンティユモン」
「要らないならくれないか?」
「絶対やだ。俺が神託を下して連れてきたんだぞ」
「連れてきたのはブロンだろう」
ニノンが無邪気に妖精達と聖域内を駆け回っている間に、神と妖精王はそんなやり取りをしていた。
「なんで嫌なんだ、白けたんだろう?要らないだろう」
「やだ。要る」
「なんで」
「お前にくれてやるのは面白くない」
「わがままだな」
ニノンの意思を無視したなんとも身勝手な会話だが、自分達が人間であるニノンより上位の存在である自覚が本人達にあるためなおタチが悪い。
「ぐるる…」
ホワイトドラゴンはそんな二人を窘めるが、聞く耳を持つ二人ではない。
「うるさいな、ブロン。邪魔しないでくれ、俺とサンティユモンの問題だ」
「ぐるるるるる…」
「ニノンの意思?聖域に足を踏み入れた時点で覚悟の上なのではないのか」
「ぐるる」
「…ニノンはまだ子供だからわかっていないかもしれない?神託の内容がもし適当だったら余計に分からないだろう?たしかに一理ある」
妖精王は頷くと、神に質問した。
「ちゃんと神託は下したんだよな?」
「ああ」
「…内容は?」
「ニノンをちょっとだけ貸してくれよってちゃんと言った」
「…クリニョタン」
妖精王は神の言葉に頭を押さえて言った。
「クリニョタンは、私より俗世に詳しいよな?」
「そうだな」
「それでは伝わっていないとわからないのか?」
「いや?わざと分かりづらくした。右往左往する人間の様子は面白いからな。特に教会にいる思い上がりも甚だしい連中のそれは笑える」
妖精王はため息を吐く。
「そんなの、ニノンにとっては騙し討ちだろうに。仕方がない、家に帰してやらないとな」
妖精王の言葉に神は噛み付く。
「なんでだよ。ちゃんと貸してくれって神託を下したし、本人も同意の元で来てくれたんだろ」
「私達にとってはちょっとだけ貸してくれって感覚なのはまあそうなんだが、それでも一生聖域に居させたいってちゃんと言わないと残された者達もニノン自身も可哀想だろう」
「…ちっ」
「まあ、ニノンを帰したくない気持ちは私としても分かるがな。ニノンはとても可愛い」
「でもブロンだってニノンをもう一度屋敷まで連れて行くの、手間だろう。ここで一生過ごせばそんな手間要らない。ここで一生過ごせば他の人間達から傷付けられる心配もない。見ただろ、無意識のニノンの心の傷を。…せっかく綺麗なら、綺麗なままここにいればいい」
神の言葉に、妖精王は苦笑した。結局、口でなんと言おうとニノンを一番気に入っているのは神の方だった。




