親子は似るのだなと、庭師は言う。
ある日、庭でお茶を飲んでいたニノンの前に猫の親子が現れた。五匹の子供達を愛情深く育てる母猫は、ニノンの前で子供達を毛繕いする。ニノンは特に手は出さない。可愛らしい、とは思う。けれど、面倒を見られるかわからない状況で下手にエサを与えたり撫でたりするのはどうだろうかと幼いなりに色々考えたのだ。
「ローズ、あの子達可愛いね。家族みんなで仲良しだね」
「そうですね、とても幸せそうですね」
「…また明日も見れるかな」
「どうでしょう?屋敷の庭が安全だと思えば住み着くかもしれません。ご飯をどうするかはわからないですけど」
「そしたら、追い出さないであげてね」
ニノンの上目遣いにローズはハートを撃ち抜かれる。
「使用人全員に伝えておきます!」
「うん!」
その後ニノンの願いは叶い、猫たちは庭に住み着いた。エサは母猫は自分で取ってきて、子供達はまだ乳を飲んでいる。その愛らしい様子を遠目に見るのが、ニノンの癒し。ローズもそんなニノンを優しく見守っていた。
そんなある日、母猫がエサを取りに行っている間のこと。子供達がトンビに襲われそうになるのを、偶然にも庭の花を愛でに来たニノンが見つけた。
「ダメー!」
言うが早いか、眠っていたニノンの潜在魔力が爆発的に目覚めた。無意識に猫の子供達を守る結界を張り、脅かす程度の威力で水の弾を鷹にぶつける。怪我を負わせるどころか脅威にならないそれだが、鷹は結界を認識して劣勢に気付き諦めて帰った。ニノンは急いで猫の子供達の数を数える。減っていない、ちゃんと五匹いた。
「よかったぁ…よかったよぅ…ぐすん」
「に、ニノン様…!」
ローズはニノンの魔力の目覚めを喜ぶべきか、悲劇は未然に防げたとはいえショックを受けた様子のニノンを慰めるべきか迷う。とりあえずファルマンにニノンの魔力の目覚めを報告しなければ。しかしこの場を離れるのは…。
「ローズ」
「トマスさん」
軽くパニックになるローズに、庭師を長く勤めるトマスが声をかけた。
「旦那様にはワシが伝えるから、お嬢様を慰めておやりなさい。魔力は貴族の証。しかしその発現は強いショックやピンチに由来する。旦那様の時も、飼い犬の怪我でな…まあ、旦那様の回復魔法で治ったんじゃが旦那様はその後も大騒ぎで。親子は似るのじゃな」
「そうですか…そんなにお嬢様はショックを…。旦那様へのご報告、よろしくお願いします」
「任された」
ローズはグズグズと泣くニノンを慰める。ニノンはしばらくローズに抱きついて泣いていたが、腹を満たして母猫が帰ってきたのを見てようやく落ち着いた。母猫はなにがあったか知らないはずであったが、ニノンに自らすり寄った。初めてのことだ。ニノンは、覚悟を決めた。
「ローズ」
「はい」
「この子達飼う」
「では、旦那様に許可をいただきましょう。首輪の用意、トイレの用意、エサと器の用意、避妊手術や去勢手術も大きくなったらしませんと。母猫も早めに避妊手術が必要ですね」
「うん!」
こうして猫達は、飼うことを許したファルマンの指示のもと獣医に検査され必要な処置を受けた。健康診断、ノミやダニの駆除、病気の予防接種などやることをやると庭から屋敷内に呼び寄せられ、家猫として飼われることとなった。
「この猫達にはニノンの魔力の目覚めを感謝しなければならないな。丁重に扱え」
「はい、旦那様!」
猫達はあっという間に屋敷内のアイドルとなり、みんなニノンによく懐いた。