ホワイトドラゴンに運ばれる
「ニノン…落ち着いてよく聞け。中央教会から緊急の伝達だ」
「中央教会?聖王猊下?」
「そうだ。聖王猊下に神託が下った」
「神託…」
ニノンはゴクリと唾を飲む。神託とは一体何事だろうか。何故それを自分に伝えるのか。
「ニノンをちょっとだけ貸してくれ…とのことだ」
「え」
「そんな神託が下ったらしい」
目玉が飛び出るほど目を見開いたニノンに、ファルマンは頷いた。
「大丈夫だ、ニノン。パパも意味がわからない。だが、その神託が下った前後ぐらいにホワイトドラゴンが聖域から飛び立ったそうだ。そして進行方向からも明らかに、真っ直ぐ我が領に向かってきているらしい」
「…ええ」
ニノンは驚き過ぎて、それしか言葉が出なかった。
「中央教会からは緊急で、ニノンだけ特別に聖域に踏み込む許可が出た。一人きりで怖いと思うが、行けるか?」
ファルマンの切羽詰まった様子に、ニノンは頷いた。
「…うん。私は大丈夫だよ。帰ってきたらパパと一緒にご飯食べるから、先に食べないで待っててね」
「…もちろんだ。待ってる。ちょっとだけってことだから、きっと用事もすぐに済むだろう」
「うん…」
頷いてくれたが挙動不審な娘の様子に、ファルマンもニノンが無理をしているのだとは気付いている。しかし、神に逆らうことなど出来ない。親としては歯がゆいが、ニノンを勇気付けて優しく見送ることしか許されないのだ。
「ニノン、大丈夫だ。神は優しく、寛大で、人間を愛してくださっている。きっと悪いことにはならない」
「うん、大丈夫…でも、ホワイトドラゴン様が迎えに来てくださるのはいいけど、私ホワイトドラゴン様に乗るの?」
「…あー、多分そうなるな」
「中央教会から怒られない?」
「聖域に踏み込む許可も下りたんだ、聖王猊下がなんとかしてくれる」
ファルマンが優しく微笑めば、ニノンは不安は拭いきれないもののやはり少しは楽な気持ちになる。
「そうだよね。聖王猊下、優しいもんね」
「そうだな」
そしてホワイトドラゴンが領内上空に現れて、あっという間にウジェーヌ公爵家の庭に辿り着いた。
「えっと…」
ニノンはホワイトドラゴンを見て、その大きさに驚いた。
「よ、よろしくお願いします」
ぽかんとしていたニノンは慌ててホワイトドラゴンにお辞儀をする。ホワイトドラゴンは頷いて、その巨体の割には小さく見える大きすぎる手をニノンに差し伸べた。
「…乗れってことですか?」
ニノンが尋ねればホワイトドラゴンはまた頷いた。ニノンはその大きな手に乗ると、大切そうに抱えられる。そして、ホワイトドラゴンは翼を広げて聖域の方へ向かい飛び去った。




