神の興味
「…なるほどなぁ」
神は聖域で、ぽつりと呟いた。
「ニノン、ニノンね」
何度もニノンの名前を繰り返す。
「うん、覚えた。ニノン。人間って、みんな似たり寄ったりだから意識しないと忘れるんだよな」
神はそう言ってもう一度泉を見つめる。その水面には、ニノンの姿が映る。
「前から気になってはいたんだよな、ニノン。突飛な発想をする割に、それで救われた人間は数知れず。俺の目にすら止まるほどの大立ち回りだ。面白いよな」
神は少し上機嫌に嗤う。
「ただの世間知らずでもない。苦労知らずでもない。むしろ、孤児院なんてところに悪い奴らに捨てられて。ああなんて可哀想な子なんだろう!」
芝居掛かった調子で神は続ける。
「なのに、貴族である父に引き取られてからも決して身勝手にはならず、傲慢にもならず。ただひたすらに誰かの事ばかりに必死になって。なんて健気な子なんだろう!」
ホワイトドラゴンはその様子を見て、ニノンという少女に酷く同情した。
「…なあ、ブロン。もし、この可哀想な健気な女の子が、無意識の深くに落ちたら。一体、どんな自分と出会うんだろうなぁ?」
ホワイトドラゴンは聞かなかったふりをして神から視線を逸らす。が、神は気に留める素振りもない。
「ブロンは興味無しか。それともこれから俺のおもちゃにされるニノンに同情して、俺の興味をこれ以上ニノンに引かせたくないからそんな冷たくするのか?でも俺はすごく気になるなぁ。無意識の深く。奥に奥に落ちて、その先で。見ないフリをしてきた自分と対峙しても、あの子の白さは変わらないと思うか?なあ、ブロン」
ホワイトドラゴンは必死になって聞かないふりをするが、ついに神から命じられた。
「ブロン、ニノンを聖域に連れてこい。大丈夫さ、中央教会とやらの聖王に神託は下ろしてやる。さすがに、なにも言わないまま連れ去ったら聖域に侵入した犯罪者扱いだもんなぁ?そのくらいのフォローはしてやるさ。優しい神で良かったなぁ?」
ホワイトドラゴンはどの口が言うと言いたげにジトリと神を見つめるが、諦めてニノンを迎えに行くため大きな白い翼を広げた。
「さて、神託神託」
神が泉を覗き込めば、その水面に波紋が広がりやがて中央教会が映り込んだ。
「ニノンをちょっとだけ貸してくれよっ…と」
神託…にしてはあまりにも軽すぎるノリ。そして要件が短すぎて伝わるものも伝わらないそれに、慌てふためく聖王。そして神託が下ったことに驚きを隠せない中央教会。
「ははっ。人間は本当に面白いな」
その姿を見てせせら嗤う神は、はやくニノンが来ないかと今か今かと待っていた。




