遠視の魔法
「そうと決まれば早速出発しようか」
蓮太郎がやる気満々でそう言うと、ガエルが引き止めた。
「その前にもう一つお願いしてもいいかな」
「なんだ?俺に出来ることなら叶えよう」
「蓮太郎殿に遠視の魔法をかけてもいいかな」
蓮太郎を首をかしげる。
「すまない。遠視の魔法というと、俺を遠くからでも見られるようにするということでいいだろうか」
「そうだよ」
「…何故?」
ガエルはにっこり笑って言った。
「我が弟子達の授業のためだよ。さすがに、超級ダンジョンに連れて行くなんて危険過ぎて無理だし。かといってせっかくの機会だ。子供達の成長のためにも疑似体験、という形でいいからダンジョンの厳しさを教えてあげて欲しい」
「…ふむ。なるほど、あいわかった。任されよ」
「じゃあ、蓮太郎殿。魔法をかけるよ」
「うむ、頼む」
ガエルは蓮太郎に遠視の魔法をかける。
「よし。これで僕が投影魔法を使えば、スクリーンさえあれば蓮太郎殿の視界を共有できる。ファルマン、シアタールーム借りていい?」
「もちろんです、師匠。ついでに、俺も見学していいですか?公爵という立場上挑むことは出来ませんが、ダンジョンに興味はあるんです」
「蓮太郎殿、いいかな?」
「もちろん結構。楽しんでいただけるよう、大立ち回りを披露しよう!」
ということで早速、蓮太郎をガエルが転移魔法でダンジョンの入り口まで送る。そしてガエルが転移魔法で屋敷に帰ると、全員でシアタールームに入って蓮太郎の視界をスクリーンに映した。
「では。いざ参る」
蓮太郎がダンジョンに足を踏み入れる。しばらくはモンスターの気配も無く、ただただ先を急いだ。ニノン達はその様子を胸を高鳴らせながら見守る。
「…っ!」
その時だった。突然蓮太郎が後ろを振り返る。そこには、蓮太郎の相棒である打刀が深々と心臓部に刺さったモンスター。
「…ふう。不意打ちとはやりおる。さすが超級ダンジョンのモンスター。知能も高いし、それを活かす身体能力も高いな」
相棒の打刀をモンスターの身体から引き抜く蓮太郎。
「さてさて、貴殿の素材を見せていただこう」
そのまま蓮太郎は、モンスターを解体して武器の強化に使える素材となる部位を掻き集めた。そしてマジックボックスというなんでも制限なく仕舞い込めるバッグに収納した。
「ふむ。状況は良好。このまま進ませてもらうとしよう」
蓮太郎の足取りはまだまだ軽い。一方でそれを見ていたニノン達はというと。
「…わあ!すごい!すごい!」
「ニノンちゃん、今の見た!?」
「見ましたよ、サラ殿下!」
蓮太郎の視点から見たダンジョン攻略に、とても興奮していた。ニノンとサラは手を取り合ってきゃっきゃと騒いでいる。
「やばい。蓮太郎さんかっこいい」
「オノレ、俺今すごく打刀欲しい」
「お前達には魔法があるでしょ」
普段冷静なオノレとユベールも蓮太郎の活躍に目をキラキラさせる。
「モンスターを素早く解体し、必要な素材を集めるその腕前もすごいな」
「そうだねぇ。やはりさすがはSSSランクだね」
ガエルは子供達の様子を見て、やはり遠視の魔法を使って良かったと一人頷いた。




