キメラ狩り完了
ファルマンは大きな犬の体に三つの頭が生えているキメラを崖の端まで追い詰めた。
「これで終わりだ」
キメラに闇魔法で作った矢を放つ。キメラは足場がないため避けることが出来ずに、心臓に矢が突き刺さる。どさり、と巨大な身体が倒れた。
「お前達、処理を頼む」
「はい!」
騎士団員達がキメラの遺体を運ぶ。キメラの遺体は、今度は魔法研究所に持ち込まれて研究に使われることになる。
「…やっと帰れる」
キメラ狩りに駆り出されていたファルマン。しばらくまともに娘の顔を見られなかった。これで最後のキメラだろうと確認も取れているので、やっと任務から解放される。
「ニノンに会いたい」
ファルマンは、ニノンの為になにかお土産を買って帰ろうと思いつつ馬車に乗り込んだ。
「パパ!おかえりなさい!」
「ただいま、ニノン。いい子にしていたか?」
「うん!」
ニノンはきちんと会うのは久しぶりなファルマンに、思いっきり抱きついた。そんなニノンをひょいと抱き上げて頬にキスを落とすファルマン。
「お土産を買ってきた。お風呂に入ってくるから、上がったら一緒に食べよう」
「わかった!」
ファルマンはお風呂に入ってさっぱりとしてニノンの元へ戻ると、庭の東屋で二人きりでお土産の桜味のプリンを一緒に食べた。
「パパ、パパに会えなくて寂しかったよ」
「俺もニノンに会えなくて寂しかった」
「本当に!?」
「ああ。久しぶりにニノンの顔を見られてホッとした。これからはまた毎日一緒だからな」
「うん!」
親子水入らずの時間を過ごす二人。穏やかな一日が過ぎると、日常が戻ってきた。
「聖女様?」
「そうだ。どうも、聖女がお前に興味を持ったらしい。聖王猊下直々の命で、お前には聖女に会ってもらう」
日常が戻ってきてすぐ、今度は聖女に呼び出されることになったニノン。ガエルが首をかしげる。
「なんでまた」
「うちの子は勉強も意欲的に頑張っていて同年代の子供達と比べて知識も豊富。魔法もかなり使えます。その上数々の柔軟な発想で難民達を助けて、領内の耕作放棄地や空き家の問題も片付けた。それによってホワイトドラゴン様の怒りも鎮めましたし」
ファルマンが饒舌に娘自慢を始める。ガエルが長くなりそうだとストップをかけた。
「ああ、はいはい。つまり、最近の活躍が聖女の耳にも入ったわけね」
「すごいじゃん、ニノン」
「聖女様はまだ幼くて、ニノンと同じくらいの年頃だし仲良くなれるかもな」
「お友達になれるといいねぇ、ニノン」
「そうですね、お師匠様!お友達になれるよう頑張ります!」
ニコニコするニノン。はじめましての相手にも物怖じしないのはニノンの良いところだと、ファルマンは満足気に頷く。
「中央教会に入れるのは、呼び出されたニノン一人だ。今から中央教会の馬車が迎えに来るが、行けるか?」
「うん!大丈夫だよ!」
「それと、聖女に会う前は一週間ほど中央教会で泊まってお清めの儀を執り行わなくてはいけない。お清めの儀は詳しくは中央教会のシスターが教えてくれるからな」
「…聖女様に会えるのは一週間後なの?」
首をかしげるニノンに、ファルマンは頷く。
「そうだ。それまで俺や師匠にも会えないが、我慢できるか?」
「…うん。でも、せっかくパパが帰ってきたのに」
ちょっと残念そうなニノンに、ファルマンは頭を撫でた。
「一週間後、おやつパーティーを企画しておく。それで許してくれるか?」
「…はーい」
「おや、タイミング良く中央教会からの迎えが来たね」
ガエルが馬車の気配に反応する。しばらくすると、中央教会の神父がニノンを迎えにきた。
「中央教会よりお迎えに上がりました」
「じゃあ、行こうか」
「ニノン、気をつけてな」
オノレとユベールに見送られるニノン。
「うん、おやつパーティー楽しみだね」
「だね。気をつけて行っておいで」
「帰ってくるのを楽しみに待っている」
ガエルとファルマンに交互に撫でられて、ニノンは手を振って馬車に乗り込んだ。




