悪魔の本音
アルスラーンはアリアと手を繋いで逃げる。しかしオンブルの鎖はアルスラーンとアリアを捕らえようとしていた。
「アルスラーン」
「なんです?アリア」
「貴方だけでも逃げて」
「貴女を置いて?冗談でしょう」
「…ごめんなさい」
アリアは、己の持てるほとんど全ての魔力を消費して転移魔法を発動した。
「なっ…アリア!」
次の瞬間には何処かに消えたアルスラーン。アリアの力で、どこに転移したかの痕跡もない。そのかわり、アリアが捕まった。
「まさか、悪魔が契約者を優先するとは。珍しいこともあるものだ」
「だがこれで、この悪魔に封印を施せる。この悪魔を呼び出すことはできなくなり、我々オンブルとしては一安心といったところか」
「しかし、契約者の方を一から探すのは手間がかかるな。もうひと頑張りだな」
アリアは、アルスラーンの無事を祈った。
アリアは、人間に呼び出されてはその度に辟易していた。人間は、自分の望みのために平気で人を犠牲にする。自分の大切な人の心臓を捧げる…それが悪魔召喚。アリアはそこまでして望みを叶えたいという人間達が理解できなかった。
「人間って、私達悪魔よりもよっぽど醜いわ」
だがアリアは、そこまでするならといつも契約者の望みを叶えてやっていた。契約者達はみんな、自分の大切な人を犠牲にしたのを忘れているかのように享楽に耽る。気持ち悪いな、というのが本音だった。
「妻を生き返らせてほしい」
アリアは、その初めての願いに困惑した。誰かのための契約など初めてだった。いつもは、金か権力か地位ばかり求められていたのに。しかし、妻を生き返らせてもこの男が報われるとは思わなかった。妻の最愛の子供達を犠牲にした彼は、きっと妻から憎まれる。それならば…。
「…目を閉じて」
一瞬のことだった。アリアは男を殺した。殺してあげた。妻とあの世で再会できるかはわからないけれど、このまま妻を生き返らせた場合よりマシなはずだと考えて。
「…でも、一度召喚されると誰かと契約して願いを叶えないといけないのよね」
手短に、死んだ子供達の中で最も年上の子を選んで生き返らせた。悪魔と契約すればほとんどなんでも手に入る。お互いにとって損ではないと思ったのだ。アリアなりの償いだった。
「…あ、悪魔」
「ええ。貴方の願いを教えて?叶えるわ」
「…貴方が僕を生き返らせたんですか?父を殺して?」
「そうよ」
「なら、兄弟達を生き返らせてください」
アリアは困った。人を生き返らせるのは一度の召喚につき一回限りだ。
「ごめんなさい。一人を蘇らせるので手一杯なの」
「…ならなんで僕を蘇らせた!?」
アルスラーンの激しい怒りに、ごもっともだと思うアリア。
「…本当にごめんなさい。でも、悪魔と契約すればなんでも手に入る。お互いにとって損ではないと思って。私なりの償いだったの」
アリアの言葉に、アルスラーンは固まった。しばらく考え込んだ後、アルスラーンは言った。
「…なら、僕の望むものをください」
「ええ。契約すればなんでも手に入るわ」
「僕を愛して、僕と一緒にいてください」
「え」
「僕にはもう、貴女しかいないんです」
アリアはこの瞬間、アルスラーンに心から惹かれるのを感じた。




