悪魔
「アリアは、元々僕の父に僕を生贄にして呼び出されたのです」
「え?」
「僕は一度、死んでいるのですよ」
アルスラーンは少し自嘲気味に笑った。衝撃的な発言にニノンとサラは唾を飲む。オノレとユベールは、一度死んだという言葉に興味を持った。ガエルは元々お見通しだったらしく驚く様子も興味もない。
「父は、母を心から愛していました。その母が死んでから、父はおかしくなったのです」
「…」
ニノンは少し、思うところがある。ファルマンもニノンの母を愛し、そして失っているからだ。
「うちは貧しい平民一家でした。けれども父は母を愛し、母は僕達兄弟五人を愛して。それなりに、幸せだったんです。だけど、ある日空き巣と鉢合わせしてしまった母は犯人に殺されました」
「そんな…」
ニノンとサラは、あまりのことに同情する。オノレとユベールは、悲劇的だがよくあることだなと冷静だった。ガエルは静かに聞き入る。
「父は母を失ってから、黒魔術にハマりました。普通の魔法は、どんなに極めても死者蘇生はできない。しかし黒魔術なら、一縷の望みはある」
「黒魔術…」
黒魔術も、帝国ではご法度である。
「そして、父は僕達兄弟を蔑ろにして数々の研究に没頭して。ついに、見つけたのです。悪魔を呼び出す方法を」
「悪魔を…」
「それには、生贄が必要でした。僕達兄弟は全員父に生贄として殺されました」
「…」
ニノンとサラは、アルスラーンがあまりにも可哀想だと涙を目に浮かべた。そんなニノンとサラに、アルスラーンは微笑む。
「同情してくれるんですね。ありがとう。そして、悪魔召喚を成功させた父は悪魔に母を蘇らせるように頼んだそうです。けれど悪魔は、召喚者である父を殺して母ではなく僕を蘇らせた。それがアリアです」
「なるほどねぇ…」
ガエルがぽつりと呟いた。そもそも悪魔との契約をする人間など、大抵訳ありだ。しかし、まさか生贄にされた人間が契約者とはとガエルは少し驚いていた。オノレとユベールも同じことを思ったらしく、顔を見合わせる。
「アリアでは、一人を蘇らせるので手一杯で兄弟達は蘇りませんでした。父も母も、兄弟も失った僕にはアリアしかいない。最初は、なんで僕を蘇らせたと憤りました。でも、アリアは僕を憐れんで良かれと思ってしてくれたのです。僕はそんなアリアを憎みきれなかった」
「…」
アリアはアルスラーンの言葉に涙目になる。
「もう、そばにいてくれるのはアリアしかいない。だから、アリアと契約したのです」
「そう」
ガエルは静かに頷いた。
「君達の言い分はよく分かった。けれど、こちらも市民の義務がある。君達のことは通報させてもらう」
「…それも致し方ありません。僕達は逃げますが」
「捕まるように祈っておくよ」
ガエルは闇魔法で然るべき機関に通報を入れる。アルスラーンとアリアは急いで転移魔法で逃げ出した。




