ファルマンのキメラ狩り
ライオンと蛇、鶏を混ぜたような姿のキメラ。実は生のキメラを見るのは初めてのファルマンだったが、浮き足立つ騎士団の団員よりも冷静だった。
「四方を囲め!一気にケリをつける!」
「はい!」
騎士団員達に囲まれたキメラは、四方に炎の息を吐く。しかしファルマンは水魔法で盾を作り打ち消した。
「今だ!一斉に斬りかかれ!」
「はい!」
ファルマンの声に、騎士団員達が一斉にキメラに斬りかかる。キメラは大量に出血し、身体はぼろぼろになる。そして悲鳴を上げて地に伏せた。
「その首、貰った!」
ファルマンが最後に、氷魔法で作った大剣でキメラの首を落とす。キメラは絶命し、騎士団員達は興奮状態で勝利を喜んだ。にぎやかな騎士団とは対照的に、ファルマンは刈り取ったキメラの首を優しく撫でる。
「…すまないな。勝手に人間に混ぜられて、利用され、辛かっただろう。せめて安らかに眠れ」
その後キメラの遺体は騎士団によって運び出され、女帝の命で編成されたキメラ対策班の元へ届けられた。キメラの作成に使われた魔力を調べて、犯人を割り出すためである。
「…魔法犯罪者のデータベースには、キメラ作成者の魔力は記録されていませんでしたか」
「そうじゃ。だが、キメラ狩りはまだまだ必要じゃ。これからまた増えるかもしれんしの」
「いたちごっこになる前に、犯人も捕まえたいですけどね」
「そうじゃのぅ…」
結局のところ、犯人につながる有力な情報はなかった。女帝は少し不安そうな顔をする。
「…さすがに、悪魔は関わっていないと思いたいんじゃが」
「悪魔ですか…関わっていたら、少し困ったことになりますね」
「そうじゃのぅ…」
超常的な存在である彼らとの契約は絶対的な禁忌とされている。だがその禁忌を犯したものがいるとすると、捕まえるのは大変に危険が伴う。しかし野放しにも出来ない。
「首都が焼け野原、とか私はごめんじゃぞ」
「俺だって嫌ですよ。それを避けるためにも、さっさと犯人を捕まえましょう」
「そうじゃな」
「では、俺はまた騎士団と合流してキメラを狩ります」
「怪我はするなよ」
ファルマンは女帝ににんまり笑う。
「俺の強さは、妹弟子である貴女がよく知っているはずですが?」
「おお、怖い。ニノンにもお前のその顔、見せてやりたいの」
「娘の前で余計なことを言ったら許しませんからね」
「わかったわかった。じゃあ頼むぞ」
「お任せあれ」
こうしてファルマンはキメラ狩りに戻る。その背中を見送る女帝はこの件に悪魔が関わっていた場合、貴族の中では誰よりも強いファルマンに取り押さえさせなければならないと少し落ち込んだ。兄弟子を死地に送り出すような真似は、本当ならしたくないがそうせざるをえない。悪魔が関わっていないことを強く願った。




