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ニノン

ニノン。孤児院の前に捨てられていた、親もわからないニノンという名の天涯孤独の少女はこの日奇跡を得た。


「ニノン、急いで準備なさい!貴方のお父様が現れたわ!」


「お父様?私の?」


「そうよ!さあ、はやく!」


父を名乗る人が現れたのである。


「お前がニノンか。…小さいし細いな」


「うん。えっと…パパ?」


「…ああ。お前のパパだ」


彼はニノンを抱き上げる。ニノンはその腕に身を委ねた。初めて会う、憧れの〝パパ〟。ニノンは、にんまりと笑った。そのニノンの表情を見て、パパと呼ばれたその人は柔らかく微笑んだ。


「今までニノンの面倒を見てくれてご苦労だった。礼を言う。ジャック」


「はい、公爵閣下。…これを受け取れ。公爵閣下の気持ちだ」


「これは…神聖金貨をいただけるのですか!?」


「公爵閣下はニノンお嬢様をここまで育てた孤児院を評価なされている。受け取っておけ」


「ありがとうございます!これで子供達に栄養ある食事を提供できます…!」


こうして引き取られることになったニノン。幼いニノンは理解していなかったが、ニノンの父を名乗る人はなんと隣国メリザンド帝国の公爵、ファルマン・ゴーチエ・ウジェーヌであった。


「公爵閣下。ニノンお嬢様は公爵閣下にそっくりとはいえ、一応ニノンお嬢様の血液で親子鑑定を致しませんと」


「確かにな。余計な憶測が広まる前に親子であることを確定させておこう。…ニノン、少し痛いのを我慢できるか?途中でメリザンド帝国随一の病院に寄る。血液検査はわかるか?」


「うん、わかるよ。血を取るの!」


「そうだ。お前が俺の子だと言う証明のために必要だ。我慢出来るか?」


「出来るよ!」


ファルマンは宣言通り病院に寄って、血液検査をした。そして、ファルマンとニノンは〝極めて近しい親族〟であるとの結果が出た。その証明書を携えて、ファルマンはニノンを連れて領地に戻る。ウジェーヌ公爵領は、ファルマンが後継を引き取ったと聞きお祭り騒ぎになった。


ファルマンの領地経営は盤石で、ファルマンに不満を持つ者は領内では少ない。その実子がファルマンの元へ引き取られたと聞けば、みんなが祝福した。


「お嬢様ー!おかえりなさいませー!」


公爵邸へ向かう馬車に、領民みんなが好意的な視線を送り手を振った。ちらりと見えたニノンは公爵そっくりの顔でこちらに手を振っており、領民達はさらに沸き立った。


「おかえりなさいませ、旦那様」


「おかえりなさいませ、お嬢様」


ずらっと並んで首を垂れファルマンとニノンを出迎えるのは公爵家の使用人達。その光景にニノンは目をパチクリした。


「パパ。もしかしてパパって偉い人?」


「このメリザンド帝国で、皇族の次に偉い」


「皇族って、王様?」


「…それに近いが、そのさらに上のようなイメージでいい」


「…パパは王様より偉いの?」


まじまじと見つめてくるニノンに、ファルマンは笑った。


「お前の育った国の王様よりは偉いな。あの国はメリザンド帝国の植民地で、ウジェーヌ公爵家はメリザンド帝国の筆頭公爵家だから。実際のところ微妙な力関係だが、うちの方が上だ。その娘であるお前も、あの国の王様より偉いよ」


「…私、偉いの?」


「誰よりも…といえば語弊はあるが、ものすごく偉い」


「そうなんだぁ」


ニノンはどう反応したものかわからないらしい。首を傾げて固まってしまったニノンに、公爵の侍従であるジャックが声をかける。


「つまり、お嬢様はこれから幸せに溢れた生活を約束されているのです」


「そうなの?」


「そうですよ。ね、閣下」


「その通りだ」


「わーい!」


無邪気に笑うニノンに、ファルマンはそっと頭を撫でた。ニノンはそれにいい笑顔を返す。ファルマンは、一日ですっかりニノンを溺愛してしまったらしい。


「パパ、ママはいないの?」


「ママは天国にいる。会いに行けるのは当分先だ。…悪いな」


「そっかぁ…」


落ち込むニノン。その小さな身体を優しく抱き上げて、ファルマンはある肖像画の前に出た。


「これがお前のママだよ。最後までママはニノンを探していた」


「ママが?」


「パパも探したんだが、遅くなってすまなかった」


「いいよ!」


ニノンの母親、メラニー・ラーズ・ウジェーヌとファルマンは大恋愛の末結ばれた幸せな夫婦だった。メラニーは侯爵家の生まれだったが、婚約者の浮気で婚約が破棄され社交界で腫れ物扱いを受けていた。そのメラニーに密かに恋心を寄せていたファルマンが、当時の婚約者と何度も話し合って払うべきものは払って婚約を白紙化し、メラニーに猛アタック。そしてメラニーがそのファルマンからの愛に絆され、電撃結婚となったのだ。


ちなみにファルマンの元婚約者はファルマンとの婚約を白紙化したあと、ファルマンから貰った慰謝料を使って爵位と領地を手に入れ大好きな幼馴染を婿に据え今でも上手くやっている。


そんなメラニーとファルマンの待望の第一子がニノンであった。ニノン・ロール・ウジェーヌ。彼女は身代金目的で誘拐され、ファルマンから金が払われると親元には返されず孤児院に棄てられたのだ。そしてようやく、ようやく見つかった。手がかりはニノンの服に刺繍されていたニノンの名前のみ。それでもようやく見つかって、ファルマンとしては心底安心した。しかし悔しさもある。


「…出来れば、メラニーにも一目見せてやりたかった。身体が弱かったから、仕方がないことだと思ってもやはり悔しいな」


「パパ。ママが悲しむから泣かないで」


「ニノン…」


メラニーとファルマンの間の子はニノン一人。ニノンはいずれ公爵家を継ぐか、婿養子を得ることになる。そんなニノンはこんなにも優しく賢い。自分も母に会いたかったはずなのに、ファルマンを慰めてくれる。この子はきっと良い領主になる。ファルマンは、ニノンを女公爵として育てることを決めた。

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