エピローグ カレーがつくる未来!
ガラムとのカレー対決から、約3か月が経った。
T市の駅前通り商店街では、『カレーのやすなが』が営業を再開していた。
「姉ちゃん、チキンカレー3つ! 1つはカレールウもご飯も大盛りで、もう1つはご飯だけ大盛り!」
客で埋まったカウンター席から、厨房に向かって、新輝が伝票を突き出した。
「はいはい! 父さん、ウチこれ作るよ」
その伝票を片手でひったくった真咲良は、隣に立っていた桂樹とともに、カレールウを煮込む寸胴鍋に向かった。
長期入院していた桂樹は、退院してからしばらく経っており、今では厨房に立てるにまでに快復していた。
「父さん。ウチら、店回すのだいぶ上手くなったでしょ?」
ニタニタしながら、真咲良は桂樹に話しかけた。
「俺が入院する前に比べればな。でも、まだまだだ……」
桂樹は、表情を崩さずに答えたが、その口調から、嬉しく思っているであろうことがうかがえた。
「ちぇっ。早いとこ、ウチらに店まかせてくれればいいのに」
「聞こえてるぞ、真咲良」
小声で悪態をついたことを、桂樹から指摘された真咲良は、照れを隠すかのように笑った。
「そうだよ。あれからまた、全然僕に厨房任せてくれなくなっちゃったじゃないか」
カウンター席から身を乗り出して、新輝が話に入ってきた。
「そんなことないでしょ? ローテーションで、ちゃんと入るようにしてるじゃんか」
「昼と夜合わせても、2時間くらいじゃないか。もっと出番増やしてよ!」
真咲良と新輝は、カウンター席を挟んでにらみ合った。
「ばあさん、また3代目どうしがケンカがしてるよ」
「『ジャンキーカリー』とのカレー対決に勝ったから、少しは変わったかと思ったのに、全然だねぇ」
常連客である老夫婦が、テーブル席でぼそぼそと会話していた。
「『ジャンキーカリー』……」
ハッとした様子で、真咲良は出入口の扉越しに、商店街の通りを見た。
その視線の先には、以前のカレー対決での敗北に伴い閉店したはずの『ジャンキーカリーT市支店が、営業を再開しているのが見えた。
出入口には、入店を待つ客の人だかりができており、入店整理にあたる頼香の姿もあった。
「『ジャンキーカリー』のほうも、頑張ってるみたいだね」
新輝の声に気づき、真咲良が彼の方を向くと、彼もまた、出入口の窓越しに『ジャンキーカリー』の店舗を見つめていた。
「カレー対決の最初の相手だった支店長も、クビになったかと思ったら、しれっと舞い戻ってきたしな」
「『ジャンキーカリー』の経営方針が変わったおかげだね」
二人は、フフッと笑った。
真咲良の言う通り、カレー対決に敗北した頼香は、ガラムにより一度は更迭された。
しかし、その後の方針転換により、支店長の座に返り咲いていたのだ。
最後のカレー対決ののち、ガラムは真咲良の希望通り経営方針を転換し、あらゆる手段を使って店舗網を広げるようなことはせず、純粋に自分たちのカレーで勝負をするようになっていた。
見た目が奇抜なカレーの数々は相変わらずだったが、来店する客や働く従業員ともに、以前よりも落ち着いた雰囲気が漂うようになっていた。
「そうそう。お互い切磋琢磨しながらやっていくのが、一番いいのさ」
「だね」
真咲良と新輝は、お互いの顔を見合ってて、強く頷いた――。
「……真咲良! 新輝!」
桂樹の大声を耳にした二人は、彼のいる厨房の奥を見た。
「チキンカレーできたよ! 物思いにふける前に、お客さんにこれ持ってって!」
彼は、調理台に置かれているチキンカレー3皿を指さした。
「ごめんごめん。新輝、量多いから、持ってくの手伝って」
「わかった」
真咲良と新輝は、小走りにそこへ向かい、それらを乗せたお盆をそれぞれ持った。
「これ、確か奥のテーブル席の注文だよな」
「そうだよ。あのいつもの子連れさん」
「ああ、雲山さん一家のところか。今週も来てくれたんだね」
二人は、しゃべりながら厨房を出、奥のテーブル席へと向かった。
そこには30代くらいの夫婦と、小学生くらいの一人息子が座っていた。
「はい! ご注文のチキンカレー、おまちどおさま!!」
「それぞれ普通盛り、ご飯だけ大盛り、ご飯もルウも大盛りになります」
二人は満面の笑みで、チキンカレーを並べていった。
それらを見つめる雲山一家の目は、皆輝きに満ちていた。
(終)
明日は、あとがきを投稿予定です。
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