第七章 リベンジマッチ! カレー力よ勝利を呼べ-2
「対決開始から、約45分が経過しました。ここで両者の様子を見てみましょう。まず、『カレーのやすなが』側から」
審査員席の隣にある実況席に戻っていた古海が、そう述べた直後。そのそばで待機していたカメラマンと音声マンが、かがみながら小走りで、『カレーのやすなが』側の調理台に向かった。
そこでは、真咲良がフライパンでカレーペーストを炒めており、新輝が寸胴鍋で野菜を煮込んでいた。
「こちらが作ろうとしているのは、以前と同じチキンカレーでしょうか? 同じ要領で作っているようですが……んー、時間がちょっとかかりすぎているか!?」
古海の実況通り、彼女たちの調理スピードは、前回のカレー対決に比べると、若干遅れていた。
通常この時間だと、カレーペーストはもう出来上がっていたはずである。
「姉ちゃん。実況の人、あんなこと言っちゃってるよ」
「いいよいいよ、気にすんな。それよりも、ウチらの納得のいくカレーを、楽しくつくろうぜ」
二人は、あおるような実況に全く動じていなかった。
いつもよりペースが遅れていることは、とうに自覚していた。
カレーペーストを作る際のスパイスの配分に少し手間取ったこと、そして野菜の煮込み時間をいつもより少し延ばしているのが、その理由だった。
しかし、そうした過程を踏んだのは、決してアクシデントがあったからなどではない。
無理なく楽しく調理をすることで、何より自分たちの求めるカレーを実現するためだったのだ。
そうした確信を持つ彼女たちに、古海のあおり実況は、これっぽっちも気にする必要はなかった。
「さあ、このような『カレーのやすなが』側に対して、『ジャンキーカリー』側はどうなっているでしょう?」
古海の実況を受けて、カメラマンと音声マンは、そそくさとジャンキーカリー側の調理台へと向かった。
「やはり、独自開発のレトルトパウチでの調理であるため、まだ調理そのものを始める様子はありません……が、この前よりパウチが増えているか!?」
古海の実況の通り、カメラマンがガラムたちの調理台を大写しにすると、レトルトパウチの袋が6つあるのが確認できた。
前回のカレー対決では5つだったため、1つ増えている。
すると、立っていたガラムが、人差し指を動かして、音声マンにガンマイクを近づけるよう指図した。
そして、そのガンマイクが頭上に来ると、柄をつかんでそれを顔に引き寄せた。
「That’s right! ご指摘の通り。先日のマジックカレーは、レトルトパウチを5つで構成されていましたが、今回はそれにスパイスのパウチを追加しています」
勝利を確信しているのか、ガラムの話し方にはかなりの余裕が感じられた。
「この数日間のうちに、さらに改良を……これを投入するのは、やはり、『カレーのやすなが』のカレーへの勝利を確実にするためですか?」
真咲良たちとは反対に、明確に前回とはプラスの意味で様子が違うことから、古海は、その6つ目のレトルトパウチに興味津々だった。
「その通りです! 先日の『カレーのやすなが』のカレーを研究し、独特なスパイスの配分をしていることを突き止めました。それよりもさらにおいしさを追求するため、これを生み出したのです」
ガラムは、6つ目のレトルトパウチを片手でつまみながら掲げ、悠然と答えた。
「では、その6つ目のパウチには、『カレーのやすなが』のカレーを上回るための秘密が隠されていると……」
「ええ。詳細については、企業秘密なのでお答えはできませんがね」
古海のテンプレートのような驚き方と反応に、ガラムは得意げに笑った。
このように、今回のカレー対決は、真咲良たち側とガラム側、互いに正反対の様相を呈しながら、進んでいった――。
* * *
その後もカレー対決は進み、真咲良たちが楽しみながらも時間をかけてカレーを作り続けていた一方で、ガラムたちは最後の15分になるまで、その場を動こうとすらしなかった。
「『ジャンキーカリー』側は、いよいよレトルトパウチを投入です! 1、2、3……」
古海の関心が『ジャンキーカリー』側に向いており、それにより会場内の観客たちの興味もそちら側に寄っていたことから、真咲良たちにとってはいっそう不利な状況になっていた。
しかしそれでも、二人は動じず、楽しみながらカレーを作ることを心掛けていた。
「なんかこれじゃあ、ハナから『ジャンキーカリー』が勝つみたいな風潮じゃん」
新輝は、炊飯器を凝視し、米の炊き具合に注意しながら、不満を口にした。
「言ってるでしょ、新輝。ああいうのは気にすんなって。大事なのは……」
彼の様子を見逃さなかった真咲良は、速やかに注意した。
だが、彼女が心配するほど、新輝は弱くはなかった。
「わかってるよ。楽しみながら、自分たちの納得のいくカレーを作るんでしょ? もうラストスパートだから、ガツンと行っちゃおうよ!」
真咲良の方を向いた新輝は、実況など気にしていないといわんばかりに、笑っていた。
「その意気だね! こっちは、もうすぐカレールウ完成しそうだけど……ご飯は?」
「もう炊けると思うよ。最初はペース遅れたけど、結局いつもと同じくらいの時間で、カレー作れそうだね」
新輝はそう言って、再び炊飯器に視線を戻した。
そんな彼の姿を、真咲良は、寸胴鍋のカレールウをかき混ぜながら見つめていた。
大丈夫だ。新輝のメンタルも問題ないし、この調子なら絶対に、『ジャンキーカリー』を倒せる、納得のいく自分たちのカレーが完成する。
彼女はそう確信し、新輝に向かって静かに頷いた。
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