第七章 リベンジマッチ! カレー力よ勝利を呼べ-1
翌朝。とうとう『ジャンキーカリー』との再度のカレー対決の日がやってきた。
以前の対決の舞台にもなった、本社ビル内の大ホールがその会場になっており、客席は多くの人で埋まっていた。
その客席の中の、舞台にほど近い区画の座席に、なんと蕃の姿があった。
「……」
彼は何も言わず、そしてもうすぐ孫たちの対決が始まるというのに、目を閉じたままじっと待ち続けていた。
「皆様、お待たせいたしました。『ジャンキーカリー』と『カレーのやすなが』のリベンジマッチ、開幕です!」
壇上中央に立つ古海が、意気揚々と声を上げると、向かって右より真咲良と新輝が、同じく左よりガラムがそれぞれ入場してきた。
お互いの出場者とその恰好は、前回の対決と同じであり、ガラムの周りには、相変わらず四人の社員が随伴していた。
そして両者は、壇上に設置されている調理台の前に立った。
「公正な審査を期すため、審査員の方々についても、前回と同じお三方にお越しいただいております。本日もよろしくお願いいたします」
古海は、壇上の脇に設置されている審査員席に、深々と礼をした。
それに応える形で、津ノ井・富安・吉成の三人も、座ったまま頭を下げた。
「あれは……津ノ井さんに富安さん、それに吉成さん。本当だ、前のカレー対決の時と同じだね」
新輝は、審査員席を通目で見ながら、真咲良の耳元に顔を近づけ、小声で言った。
「いいじゃん。下手に審査員変えられて、勝ったときにまぐれだのなんだの言われなくて済むし」
真咲良は全く動じておらず、審査員たちを直視したまま小声で答えた。
「対決開始の前に、両者の意気込みをうかがってみましょう。まずは、『カレーのやすなが』側から……」
古海は、小走りで真咲良のもとに近づいてきた。
「今回のカレー対決は、ご自身のほうから申し込まれたとのことですが、どういう心境からだったのでしょうか?」
マイクを差し出された瞬間、真咲良は古海の腕ごと、それを自分のもとに引き寄せた。
「前回のカレー対決は、ミスが重なったこともあり、実力を発揮できず、不本意な結果に終わってしまいました。だからこそ、自分たちの本当の実力を証明するために、リベンジマッチをする。それだけです」
真咲良は力強く、息継ぎをほとんどせずにしゃべりきった。
「……そ、そうですか。続いては、『ジャンキーカリー』のほうへ」
真咲良の闘気に圧倒された古海は、少し硬直したあと、気を取り直してガラムのもとへ向かった。
「ミハギノ社長。前回の敗者から再度挑戦を受ける形になりましたが、今回も勝つ自信がおありですか?」
差し出されたマイクに、ガラムは、背中で手を組んだまま顔を近づけた。
「当然です。我々が開発し、さらに現在も改良を重ねているマジックカレーは、どんなカレーよりも勝っている、究極のカレーですから!」
ガラムの口調は、余裕にあふれていた。
「しかし、『カレーのやすなが』からの挑戦を受けられたのは、なぜですか? 一度買っているのであれば、申し出を断ってもよかったはずですが――」
「それは単純に、彼女たちの熱意に感銘を受けたからですよ。それに……」
「それに?」
今までゆったりとしゃべっていたガラムの口が、一瞬止まった。
「いや、T市での対決と言い先日の対決と言い、何かと『カレーのやすなが』には因縁がありますからね」
もっともらしい理由を述べたガラムだったが、どこか歯切れの悪さがあった。
「なんか、社長の様子おかしくなかった?」
先ほどとは打って変わって、今度は真咲良が新輝に、小声で訊いた
「姉ちゃんが「負けたら支店になる」って啖呵切ったこと、大っぴらには言えないからでしょ?」
「確かに、それはあるかもだけど……」
新輝の分析は、もっともだった。
支店網拡大のためにリベンジマッチを引き受けたなんて口外したら、『ジャンキーカリー』の評判は悪くなるだろう。
だが、それ以外に何か事情がある。真咲良には、そう感じられて仕方なかった。
「以上、両者の意気込みを聞くことができました。さて、当ホールの各所に設置されている時計が、12時ちょうどを指しましたら、いよいよカレー対決スタートです。制限時間は2時間で……」
古海の言葉で、真咲良は、左腕の腕時計をちらっと見た。
12時になるまで、あと1分ほどだった。
余計な感情に流されている暇は、無い。
「……まあいいや。新輝、あの社長に、ウチらのカレー力を見せてやろうぜ!」
真咲良は、自分にも言い聞かせるように、新輝に呼びかけた。
「もちろんだよ、姉ちゃん!」
新輝は、片手で握りこぶしを突き出しながら、返事をした。
そうしているうちに、時計が12時ちょうどを指した。
「それではカレー対決、スタートです!」
こうして、真咲良たちとガラム、最後の戦いが始まった。
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