第六章 立ち上がれ三代目! 真のカレー力に気づくとき-2
扉の脇に荷物を置いた蕃は、そのままダイニングテーブルについた。
それにタイミングを合わせる形で、真咲良もテーブルにつき、新輝は蕃に、麦茶の入ったコップを置いた。
「ここに来るまでの道中で、大会の結果がどうなったか、大体聞いてきたよ」
蕃がそう切り出した瞬間、真咲良は肩をびくつかせた。
「ごめん、蕃じいちゃん。頑張ったんだけど……」
声を震わせて、真咲良は答えた。
一度は立ち直ったように見えた彼女だったが、蕃が来る前の意気消沈した様子に逆戻りしてしまっていた。
「謝らなくていい。それよりも、これから何をすべきか考えるんだ」
「これからって言ったって、僕ら負けちゃったし……」
真咲良の横に座った新輝は、蕃の言葉に素っ気なく返した。
「1回負けただけで、このままあきらめるのか?」
蕃の言葉には、じょじょに力がこもり始めているのが感じられた。
「どういうこと? もう1回、ジャンキーカリーと対決してみろ……ってこと?」
真咲良の言葉に、蕃は、その目を見ながら静かに頷いた。
「リベンジマッチだなんて、ミハギノ社長は聞いてくれるのかな? 聞いてくれたとしても、勝てるかどうか……」
真咲良ほどではないが、新輝もまた弱気になっていた。
必死になって蕃のもとでカレー力を高め、頼香との対決に勝利し着実に実績を積み上げてきていたが、今日のカレー対決で、そのすべてを打ち砕かれたように感じていた。
「お前たちのカレー力は、そんなものじゃないはずだ。まだ伸びしろはある」
「伸ばすったって、どうすりゃあ――」
真咲良は、蕃の言葉が信じられなかった。
「それは、お前たち自身で考えるんだ」
直接的なアドバイスはしなかったものの、蕃は何かを確信しているように見えた。
「……!」
真咲良と新輝は、一様に蕃の顔を見つめていた。
蕃は、静かに目を閉じ続けていた――。
「わしから助言できるのは、これだけだ」
少し間を置いてから、蕃は勢いよく立ち上がった。
そして、扉の脇に置いてある荷物を手に取り、出かける準備を始めた。
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「姉ちゃんの言うとおりだよ。せっかく東京に来たんだし、ここに泊まっていけばいいじゃん」
蕃の突然の行動に、真咲良と新輝は驚き、立ち上がりながら呼び止めた。
しかし、蕃は支度をやめようとはしなかった。
「ここはミハギノ社長が、二人のために借りているんだろう? わしが一緒に泊まっちゃあ、いろいろとまずいだろう」
「いや、そんなことないよ。それに……」
蕃じいちゃんに、いろいろ話を聞いてほしいんだ。真咲良はそう続けようとしたが、彼の手がそれを遮った。
「宿は取ってるから、まだしばらく東京にいるよ。久しぶりに来たんだ。観光がてらに、色々まわってみようかな」
「観光って……」
蕃の言葉に、新輝はあっけにとられた。
「真咲良、新輝。自分たちのカレー力を、信じるんだぞ」
最後にそう言い残して、蕃はさっさとダイニングキッチンの扉を開け、そのまま玄関から出て行ってしまった。
「……行っちゃった」
真咲良は、ただ蕃の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「カレー力を信じろって、どういうことなんだよ……ねえ、姉ちゃん」
立ち上がって玄関の鍵を閉めた新輝は、再びダイニングテーブルにつくやいなや、そう口走った。
「……」
「姉ちゃん?」
真咲良は、黙ったまま何も答えなかった。
彼女は頭の中で、蕃の言葉を1つ1つ反芻していた。
1回負けただけでもうあきらめるのか?
お前たちのカレー力には、まだ伸びしろがある――。
そういった蕃の言葉にすがりたいと思っているうちに、彼女の中に少しずつ闘志が復活していった。
「……やろう、新輝」
「やろうって、何を……もしかして!」
真咲良が何を言おうとしているのか、新輝はワンテンポ遅れて理解した。
「僕だって、やりたいのはやまやまだけど、ミハギノ社長が受け入れてくれるかな?」
新輝はまだ迷っている様子だったが、真咲良にはその迷いは全くなかった。
「受け入れてくれるかどうかじゃなくて、無理矢理でも約束を取り付けるんだよ」
「またそういうパターン? 強引な……」
「今回の対決は、もとはと言やあ、あっちが一方的に申し込んできたもんよ。こっちも相応のことをやり返さなきゃ、フェアじゃないでしょ?」
真咲良の口調は、じょじょにヒートアップしていった。
「じゃあ、できるとなったら、今の僕たちで勝てるの? 勝算は?」
「そんなもの、対決できるとなってから考えればいいんだよ」
「あのさあ……」
さっきまでの弱気っぷりが嘘のように、いつもの調子に戻った真咲良に、新輝は眉をひそめた。
しかし同時に、彼女が立ち直ってもう一度ガラムと対決する気になったことが、とても嬉しかった。
「……わかったよ、姉ちゃん。とにかくもう1回対決をやろう。とりあえず、僕のほうからメールを送ってみるよ」
そう言って、新輝が立ち上がろうとすると、真咲良が右手を突き出して、それを止めた。
「何言ってんだよ、新輝。もっと確実で単純な方法があるじゃないか」
真咲良の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「へ、何それ?」
新輝は、彼女の意図していることがわからず、ぽかんとしていた。
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