第六章 立ち上がれ三代目! 真のカレー力に気づくとき-1
『ジャンキーカリー』の『カレーのやすなが』への勝利の報は、瞬く間に全国に知れ渡ることになった。
一部のメディアがネットニュースでそれを報じた他、『ジャンキーカリー』が、自社の管理するあらゆる媒体を通してそれを大々的に宣伝したからだった。
「これからどうする、姉ちゃん?」
ガラムとのカレー対決が終わった日の夜。
ウィークリーマンションに帰ってきていた新輝は、ダイニングテーブルに突っ伏している真咲良に問いかけた。
彼女の受けたショックは新輝以上であり、帰り道の道中、何を訊いても言葉を返さないほど落ち込んでいた。
これほど意気消沈している姉を、新輝は未だかつて見たことがなかった。
「このままじゃ、家に帰れないよ。ウィークリーマンションの契約期限も、まだ残ってるしね」
顔を上げた真咲良は、新輝の方を向かずに答えた。
カレー対決が終わってから、初めて彼女がその口を開いた瞬間だった。
部屋の中に置かれていた契約書には、滞在期間が1週間となっており、あと4日間は猶予があった。
カレー対決が不本意な結果に終わったこともあり、真咲良たちは暇を持て余す結果になったのだ。
「じゃあどうする? 東京観光でもする?」
「そんな気分には、なれないよ」
新輝は、少しおどけて言ったが、真咲良には逆効果だった。
しばらくの間、二人を静寂が包んだ。
「……いや、ごめん新輝。ありがと」
新輝の言葉の真意に気づいた真咲良は、彼に背を向けたままそう謝った。
「……いいよ、姉ちゃん」
彼は、少し嬉しそうに答えた。
その時、「ピンポーン」と、部屋のインターホンが鳴った。
「こんな時間に、お客さん?」
予期せぬ出来事に、新輝は驚いた。
スマホを確認してみると、時間はもう20時を過ぎている。
「悪いけど新輝、出てくんない?」
「わかった」
真咲良の言葉を受けて、新輝はダイニングキッチンの扉を開け、玄関へと向かっていった。
その、玄関の扉を開ける音がかすかに聞こえたあと、そこから何も聞こえなくなった。
「新輝?」
違和感を覚えた真咲良は、突っ伏していたテーブルからがばっと起き上がり、ダイニングキッチンの扉を見た。
「姉ちゃん、来てよ来てよ!」
新輝の呼びかけが聞こえた。
「なんだよ。短期で借りているウィークリーマンションに来る人なんて、普通誰もいやしないのに……」
そうぶつぶつ言いながら玄関まで歩き、顔を上げると――真咲良は、驚きのあまりしばらく声が出なかった。
「元気してるか? 真咲良、新輝」
そこに立っていたのは、蕃だった。
白いシャツの上から、薄手の羽織と袴を身にまとい、足元には年季の入った茶色のトランクと、明治時代か大正時代を思わせるような服装だった。
「蕃じいちゃん! なんで……?」
落ち着きを取り戻した真咲良は、絞り出すような声で訊いた。
「二人が、『ジャンキーカリー』のガラム社長と対決することになったって聞いてね。新輝から連絡をもらって来たんだよ。飛行機の都合で、大会には間に合わなかったがね」
微笑みながら、蕃は答えた。
「でもどうやって? ここ数日、新輝が蕃じいちゃんに電話したところなんて、見てないけど」
「このご時世、年寄りでもスマートフォンくらい使うさ」
そう言って、蕃は袖の脇からスマートフォンを取り出した。
電源を入れると、そこには新輝が送ったと思われる、メール文面が表示されていた。
「新輝。このことウチに黙ってたの?」
真咲良は、じとりと新輝を見た。
それに対して、彼は「蕃じいちゃんにメールしたことくらい、伝えなくてもいいかなと思って」と、苦笑いしながら弁明した。
「……まあいいや。蕃じいちゃん、とにかく入って入って」
真咲良と新輝は、蕃を部屋の中へと招き入れた。
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